研究課題/領域番号 |
25850082
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
岩崎 崇 鳥取大学, 農学部, 助教 (30585584)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞膜透過ペプチド / ヒスチジン / ヒト扁平上皮癌細胞 / マクロピノサイトーシス / ゴルジ体 / リソソーム |
研究概要 |
本研究では、新たな細胞膜透過ペプチド『ポリヒスチジン(H16)』の『細胞選択性メカニズム』ならびに『細胞膜透過メカニズム』の解明を目指している。H25年度においては、主として以下の研究計画を遂行することで、H16の分子機構の解明に挑んだ。 【1:H16の細胞膜上の結合因子の特定】表面プラズモン共鳴解析により、H16と13種のリン脂質、または47種の糖鎖の結合を調べたが、顕著な結合を示す因子は見つからなかった。そこで、H16が効率的に細胞膜透過を示す細胞株(ヒト扁平上皮癌:RERF-LC-AI)から、膜タンパク質の粗抽出画分を調製し、H16との結合をDot-Blotting法により調べたところ、明確な結合を示す因子が存在することが示された。 【2:H16の細胞内取り込み経路の特定】H16の細胞膜透過に対して、様々な条件(温度条件、pH条件、血清の存在)が及ぼす影響を解析した。その結果、pH条件および血清の有無はH16の細胞膜透過には影響を与えないことが分かった。一方で、低温条件(4℃)において、H16の細胞膜透過は完全に阻害されることが明らかになった。このことから、H16の細胞膜透過はエネルギー依存的な細胞内取り込み経路=エンドサイトーシスに起因している可能性が示唆された。そこで、種々のエンドサイトーシス阻害剤の影響を解析したところ、H16の細胞膜透過は『Amiloride(マクロピノサイトーシス阻害剤)』により顕著に阻害されることが明らかになった。以上のことから、H16の細胞膜透過メカニズムは、マクロピノサイトーシスに起因していることが明らかになった。 【3:H16の細胞内挙動の解明】細胞内に取り込まれた後のH16の細胞内局在を解析するために、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソームを染色し、H16との共局在を観察した。その結果、H16は細胞内においてゴルジ体およびリソソームに局在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H25年度遂行予定であった【1:H16の細胞膜上の結合因子の特定】に関しては、50%程度の達成度であった。結合因子が膜タンパク質である結果が得られたことから、今後は膜タンパク質の単離・精製を行うことで、特定まで達成することができると考えている。 同様にH25年度遂行予定であった【2:H16の細胞内取り込み経路の特定】に関しては、マクロピノサイトーシスという経路特定まで行うことができたので、100%達成できたものと考えている。 また、本来は次年度(H26年度)に遂行予定であった【3:H16の細胞内挙動の解明】に関しても、H16は細胞内においてゴルジ体およびリソソームに局在することを明らかにできたので、100%達成できたものと考えている。 以上のことから、研究計画の達成の順番が当初の予定とは若干異なっているが、達成度という観点からは『当初の計画以上に進展している』と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は以下の研究計画を遂行する。 【1:H16の細胞膜上の結合因子の特定】H16と結合する膜タンパク質の精製・単離を行う。具体的には、H16を固定化したマグネットビーズを作製し、膜タンパク質粗抽出画分からの精製を試みる。その後、精製された膜タンパク質をPMF法およびバイオインフォマティクス解析により、特定する予定である。 【4:H16の生体内挙動の解明】H16の生体内挙動を明らかにするために、静脈注射により蛍光標識H16をマウスに投与し、各組織への集積性と血中半減期(排除時間)を、in vivoイメージング装置によって測定する。また、H16の細胞選択性が、生体内においても保持されるかを解析する。H16が高い選択性を示す細胞株(ヒト扁平上皮癌:RERF-LC-AI)を移植した担癌マウスに、蛍光標識H16を投与し、腫瘍部位におけるH16の集積性を測定する。以上の解析により、H16を創薬応用へ展開するための基礎的知見を得る。 【5:バイオインフォマティクス解析による生命現象の総合的解釈】H16が細胞膜透過を示すことの『生物学的な意義』を総合的に解釈するために、バイオインフォマティクス解析により得られる他のヒスチジンリッチな生体分子に関する知見と、これまでに得られたH16の分子挙動に関する知見を比較する。『他のヒスチジンリッチな生体分子が、H16と同様の挙動を示した場合、どのような生物学的意義が見出せるか?』または『他のヒスチジンリッチな生体分子の挙動(局在)と、H16の挙動(局在)の間に共通点は見出だせるか?』という視点から、H16の『生物学的な意義』を総合的に推測し、解釈する。
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