新たな細胞膜透過ペプチド『ポリヒスチジン(H16)』の分子機構ならびに応用の可能性を明らかにするために、以下の研究計画を遂行した。 【H16の細胞膜上の結合因子の特定】これまでに、H16はヒト線維肉腫細胞株(HT1080)に対して高い細胞膜透過(細胞選択性)を示すことが明らかになっている。そこで、H16の細胞膜透過ならびに細胞選択性のメカニズムを解明するために、HT1080細胞株の細胞表面においてH16と結合する分子の特定を試みた。光架橋性分子であるBpa(p-benzoyl-L-phenylalanine)で標識したH16 (Bpa-H16)をHT1080細胞株に添加した後に、UV照射によってBpa-H16と標的分子間で共有結合を形成した。次いで、Bpa-H16標識された標的分子をアフィニティクロマトグラフィーにより精製し、種々の生化学的手法により解析した。その結果、Bpa-H16は細胞膜上の約50kDaの膜タンパク質と結合していることが明らかになった。しかしながら、精製による収量不足のため、同定までには至らなかった。 【H16の生体内挙動の解明】ヒト線維肉腫細胞株(HT1080)を移植した担癌マウスを作成し、尾静脈注射により蛍光標識H16を投与することで、H16の生体内挙動を解析した。その結果、H16ペプチドは腫瘍組織(HT1080細胞株)に高い集積を示し、投与後132時間まで腫瘍組織に滞留することが明らかとなった。一方で、対照区として用いた細胞膜透過ペプチド:R8ペプチドは、投与後に速やかに腎臓から排出され、腫瘍組織への集積は見られなかった。この結果から、H16は腫瘍組織に対する高い集積性と長期間の生体内滞留性を有することが明らかになった。 以上のin vitroおよびin vivo解析から、H16の細胞膜透過の分子機構の全容解明には至らなかったが、その一方で、H16は腫瘍を標的としたDDS素材として高い応用性を有していることが明らかになった。
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