近年,花粉症をはじめ食品アレルギーやアトピー性皮膚炎などのアレルギー患者数は増加し大きな社会問題となっている。医療費の増大に加えて生活の質(QOL)の低下を招くことから,根本的治療法の開発が切に求められている。そこで本研究では,アレルギー症状の改善につながる免疫寛容誘導剤の開発を目的として,「Treg分化誘導能を有するポリフェノール配糖体」を酵素合成法により創製し,「低アレルゲン性の多糖修飾抗原」を結合させることで抗原特異的な免疫寛容誘導療剤の開発を試みた。得られた成果は以下のとおりである。1)カテキン類およびフェノール酸類を骨格として,単糖からオリゴ糖までの鎖長の異なる新規配糖体の合成に成功した。2)OVAにヘパリン(酸性多糖)を修飾させることでアレルゲン性の低下が認められた。3)新規配糖体と低アレルゲン性の多糖修飾OVAの複合体を試みたが,成功には至らなかった。4)THP-1由来樹状細胞を用いたin vitro評価法によりスクリーニング試験を行った結果,フェルラ酸及びフェルラ酸配糖体において免疫寛容誘導因子TGF-βの産生促進効果が認められた。5)OVA感作マウスに対する21日間経口摂取の影響を検討したところ,フェルラ酸とフェルラ酸グルコシドにおいて,血中ヒスタミンの産生抑制,及びパイエル板におけるTreg細胞が増加することが示された。また,蕎麦アレルゲンであるFag e 2の感作マウスにおいても同様の効果が得られた。6)ヘパリン修飾OVAとフェルラ酸グルコシドの混合物をOVA感作マウスに28日間摂取させたところ,コントロール群と比較してアレルギースコアの低下が認められた。以上の結果より,低アレルゲン性の多糖修飾抗原と新規フェノール配糖体は抗原特異的な免疫寛容誘導剤の開発において有用であることが示唆された。
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