研究課題/領域番号 |
25850089
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
山口 智子 京都工芸繊維大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (90644914)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 抗酸化 / ESR / HPLC-ESR / 脂溶性成分 |
研究概要 |
近年、食品の抗酸化活性を系統的に数値化する研究が進められている。食品成分の分析には多数の混合成分を分離し各成分の抗酸化活性を評価することが必要である。我々は、HPLC分析装置とESR装置を融合したHPLC-ESR装置を開発した。この装置は、HPLCカラムで分離した成分の濃度に関する情報を光吸収スペクトルで得るとともに、ESRシステムにより溶出成分の抗酸化活性をオンライン分析することが可能である。この装置で得られるESRクロマトグラムのピーク強度と面積強度は、カラム溶出成分のO2-・ラジカル消去活性および濃度に依存することから、食品、青果物および飲料などの混合系試料の抗酸化活性評価とそれに含まれる高活性成分の探索が可能となる。 HPLC-ESR装置を用いて青果物およびコメなどの混合成分のO2-・抗酸化活性を測定し、ESRクロマトグラムを既知の化合物であるコーヒー酸で換算することにより、抗酸化活性の数値化が可能となる。抗酸化活性の数値化により品種間での抗酸化活性を比較することができる。抗酸化活性成分の構造については、HPLCカラムより溶出した成分を分取し1H-NMRおよび質量分析することで成分を明らかにする。また、青果物やコメに含まれる高分子量成分については、77K-ESR測定をすることで含有する金属イオンが測定可能である。この装置を青果物やコメの脂溶性成分に応用するために、アセトニトリルやメタノールを溶媒とする新規HPLC-ESR装置を開発し、青果物や食品から有機溶媒に可溶成分の抽出方法等を確立する。 このようにして青果物およびコメの水溶性成分と脂溶性成分の抗酸化活性を包括的に議論することができれば、HPLC-ESR法が食品の機能性に関する新規評価法として発展する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HPLC-ESR装置を用いて青果物およびコメの水溶性成分の抗酸化活性を成分を探索し、高活性成分の分子構造を明らかにした。 1)青果物およびコメの調製法:青果物の調製法は、可食部の3倍量の超純水を入れミキサーで攪拌後、濾紙を用いて濾別することで水溶性抽出成分を得た。炊飯したコメに関しては、糊状になってしまい従来の抽出法では困難であった。炊飯したコメを凍結乾燥後、超純水と混合後、超遠心機で分離することでコメの水溶性成分の抽出方法を確立した。 2)ESRクロマトグラムの線形シミュレーション:得られた青果物およびコメの水溶性成分をHPLC-ESR法を用いて分析した。ESRクロマトグラムから溶出成分の抗酸化活性を評価する手法として既知のコーヒー酸(CA)を基準とするESRクロマトグラムの線形シミュレーションによる解析法を検討した。ESRクロマトグラムに観察される下に凸のピークの強度は、カラム溶出成分に消去活性成分が含まれることを意味しており、ピークの強度と面積強度は溶出成分のO2-・消去活性と濃度に比例して増加する。実際のESRクロマトグラムを既知化合物であるコーヒー酸(CA)の濃度変化にガウス線形を考慮することでシミュレーションすることが可能となる。ESRクロマトグラムの全ピークの面積強度に関する各ピークの面積強度の比率として各ピークで溶出する成分の比抗酸化活性(%)を求めることが可能となった。 3)抗酸化活性成分を有する成分の分析:青果物10種類の中で最も高活性であった菜の花は、桂皮酸ポリフェノール誘導体やクロロゲン酸が消去活性成分として含有していることが明らかになった。炊飯米に関しては、ニコチン酸誘導体が活性成分であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
1)同種の青果物の異なる品種の抗酸化活性:青果物10種類のO2-・消去活性を測定したところ、花蕾類が最も高活性であった。その中でも、菜の花の品種であるおいしい菜やチンゲン菜花が高い抗酸化活性を有することが明らかになった。同種の青果物の抗酸化活性および成分を比較することで品種間での差別化が可能になると考えられる。コメに関しては、国内米2種と外国産米2種の品種間差が明らかになった。国内米の検体数を増やすことで基準となる平均値を算出する。また、古代米など品種の異なるコメの解析を行う。 2)青果物およびコメに含まれる脂溶性成分の抗酸化活性評価:青果物およびコメに含まれる脂溶性成分の抗酸化活性HPLC-ESR法で評価する。有機溶媒系でO2-・のスピントラッピング反応の最適化を行うとともに、有機溶媒系で含有成分と分離するカラムを選択する。今までの予備的な研究で、含水メタノール系で水分量が10から50%までなら現在の装置と同様の反応系でO2-・の対する抗酸化活性を測定することが可能であると判明している。 3)高活性成分の同定:青果物およびコメの混合成分の1H-NMRを測定することにより、主要成分を明らかにしたが、微量成分の解析は至っていない。そのため、HPLCカラムより分離した成分を分取し、各成分のNMRおよび質量分析することで微量な高活性成分の詳細を明らかにする。 4)異なるラジカル種に対する抗酸化活性評価:ORAC-ESR法を流通型ESR系に応用することで、異なるラジカル種に対する抗酸化活性評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
青果物とコメに含まれる水溶性および脂溶性成分の抗酸化活性成分の数値化を行うために、 平成25年度は、HPLC-ESRシステムを青果物およびコメなどの水溶性溶液に応用し、抗酸化活性の数値化および高分子量成分の分離および同定を行った。この研究に関する情報交換を共同研究先であるデザイナーフーズとする予定であったが、日程など未確定であったため当該助成金が生じた。 青果物およびコメに含まれる脂溶性成分の抗酸化活性をHPLC-ESR法で評価する。有機溶媒系でのO2-・のスピントラッピング反応の最適化を行うとともに、有機溶媒系で含有成分と分離するカラムを選択する。有機溶媒系で使用可能なカラムの購入費とする。
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