本研究は、日本で発生する細菌性食中毒の原因物質として大半を占める Campylobacter jejuni について、より確実な検査方法を確立するために、C. jejuni の損傷およびVNC状態からの回復についての検討を行うものである。平成26年度は、効率の良い C. jejuni 損傷菌体の調製法、損傷を評価するための寒天培地の選択および損傷からの回復についての検討を行った。 まず、損傷菌体の調製に用いる新鮮(健常)菌体の調製法についての検討を行った結果、保存菌株をmCCDA培地に画線培養し、42℃にて48時間培養後に生じたシングルコロニーをBolton培地に接種し、さらに42℃にて48時間培養した増菌培養液中の菌体は、らせん状を維持しており、球状化した菌体は極めて少なく、この増菌法により得た菌体を用いて損傷条件の検討を行うこととした。また、増菌培養後の菌数は、mCCDA培地および0.3%NaCl添加Nubrient寒天培地(NA)のどの培地上を用いても菌数に有意差はなく、新鮮菌体はどの培地を用いても菌数を評価できることを確認した。 次に、上記の方法により得た新鮮菌体を集菌、洗浄後、PBSにOD660=0.1となるように菌懸濁液を調製した。この菌懸濁液を25℃で10分間保温後、45℃、50℃、55℃および60℃で5分間加熱後の菌数を上記の4種類の培地を用いて評価した。その結果、50℃で加熱した菌液は、mCCDA培地上では加熱前後で菌数に有為な減少はなかったが、NA上では加熱後は加熱前と比べて1オーダーの菌数することを見い出した。培地の組成を比較した結果、mCCDA培地はピルピン酸が豊富であり、加熱損傷ではピルピン酸合成系酵素が障害を受けるため、培地へピルピン酸を添加することで、損傷菌体の回復が促進されることが示唆された。
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