研究課題/領域番号 |
25850101
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
鳥丸 猛 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10546427)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 繁殖生態学 / 空間配置 / 繁殖量 / 非等方向性 / コシアブラ / マイクロサテライトマーカー |
研究実績の概要 |
近年の急激な気候変動によって樹木個体群の死亡と加入過程の間の不均衡(非平衡状態)は増大している。この現象は、これまで集団遺伝学が仮定してきた動的平衡にある個体群動態に基づく理論モデルでは樹木集団の保有する遺伝資源量を的確に予測できない可能性を示し、今後の森林の遺伝資源の保全のためには、自然現象の変動性を考慮に入れた、より現実的な集団遺伝学モデルに基づく遺伝子動態の予測が課題となっている。以上の背景をふまえ、平成26年度は集団内の雄性繁殖量の変異性と空間構造を同時に考慮に入れたシュミレーションモデルを構築し、樹木集団内の空間構造が交配パターンに及ぼす影響を解析した。その結果、繁殖個体の花粉生産量の空間分布がランダムである場合、花粉生産量の個体間のバラツキが大きくなるほど種子の遺伝的多様性は低下する傾向が認められた。一方、異なる花粉生産量を示す個体が集団中で偏って分布している場合、等方向性の花粉散布パターンを示す集団では種子の遺伝的多様性は個体の空間構造の影響を受けないが、非等方向性の花粉散布パターンを示す集団では異なる花粉生産量を示す個体の空間構造の偏りの程度によって種子の遺伝的多様性はばらつく傾向が認められた。以上から、集団内の交配パターンには、どの程度の繁殖量(花粉生産量)を示す個体がどのように配置しているかが重要であり、このことは台風撹乱によって発生する非ランダムなギャップ形成によって創出される好適な光環境が繁殖個体の繁殖量の空間的なバラツキを増大させ、樹木個体群の遺伝資源量の変動に影響を及ぼす可能性を示すものである。また、平成26年度は大山ブナ老齢林に設置された固定調査区内において、対象としている高木性の主要構成樹種の一つであるコシアブラの葉のサンプリングを実施し、遺伝分析の開始のための準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝調査では、実施項目であった葉のサンプリングは実施できたが、当該樹種の一部の結実が不良であったために、種子については一部採取することができなかった。シミュレーションモデルの構築は順調に進んでおり、集団構造からと遺伝資源量の増減を予測することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、主要構成樹種の稚樹のマイクロサテライト遺伝子型の決定を行い、遺伝的多様性と遺伝構造の程度を比較するとともに、それらの成木から種子を採取して父性解析を実施し、花粉の飛散カーネルを推定する。また、稚樹の遺伝分析に基づく親子解析によって種子の散布カーネルを推定し、花粉・種子を媒介した遺伝子流動の実態を把握し、それらの散布パラメータを開発したモデルに組込み、様々な撹乱体制シナリオに基づく遺伝資源量の推定を行う。
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