近年の急激な気候変動によって樹木個体群の死亡と加入過程の間の不均衡(非平衡状態)は増大しており、樹木集団の保有する遺伝資源量を的確に予測するためには、より現実的な集団遺伝学モデルに基づく遺伝子動態の予測が課題となっている。以上の背景をふまえ、平成27年度はブナ林の主要構成樹種であるブナ、ハウチワカエデ、コミネカエデの稚樹(樹高30cm以上かつ胸高直径 5cm未満の幹)の6年間(2009-2015年)の個体群動態を台風撹乱の影響と関連させて比較した。 2009-11年には大山付近を通過した台風は2回記録されたが、2011-13年には台風の通過は認められなかった。毎木調査の結果、ブナとコミネカエデの2009-11年における死亡率は2011-13年よりも高く、ハウチワカエデでは2011-13年の死亡率が高かった。ハウチワカエデとコミネカエデにおける倒木・落枝に起因する損傷による死亡は、2011-13年よりも2009-11年で約1.5倍多く認められたが、一方、ブナでは調査期間の間に差異が認められなかった。以上から、台風の影響を受ける期間では、稚樹個体群の死亡率または物理的損傷による死亡割合が上昇する傾向が認められたが、稚樹と成木の個体群で異なる傾向を示す場合も認められた。また、加入率は台風撹乱が認められなかった期間で上昇しており、台風撹乱の有無が個体群の加入に影響を及ぼすことが示された。さらに、個体群の死亡率は当該期間に発生する自然撹乱ばかりでなく、過去に起こった撹乱によって受けた個体数の増減によっても変化することが明らかになった。このことは、単純に調査期間ごとの自然撹乱の強度と個体群動態パラメータを比較するだけでは個体群の自然現象の変動性への応答を正しく定量化できないことを示しており、自然撹乱の時系列にそった発生頻度とその強度を考慮した個体群動態解析が必要であることが示唆された。
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