研究課題/領域番号 |
25850107
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
三木 直子 岡山大学, その他の研究科, 准教授 (30379721)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 乾燥ストレス / 通水阻害 / 回復 / 水分布 / 生理活性 / 光合成 / 木部構造 / 水輸送 |
研究実績の概要 |
本年度は通水機能の回復のプロセスの異なる針葉樹および広葉樹それぞれについて、通水機能の回復性のメカニズムおよび回復性に影響を与える生理的特性について調べた。 針葉樹では乾燥ストレスにより生じた仮道管の空洞化に伴う木部通水機能の損失は不可逆的であると考えられてきた。しかし、壁孔壁の位置の移動に伴い壁孔の通水抵抗が可逆的に変化することで木部の通水機能も変化しうることから、乾燥条件下で仮道管が水を保持したまま壁孔の通水抵抗の増加により木部通水機能が低下しているかもしれない。そこで、中国半乾燥地の代表的な緑化植物を用い、異なる乾燥強度下において木部の水分通導度に仮道管の空洞化および壁孔壁の位置が与える影響について検討した。吸水を制御し異なる乾燥強度にさらしたポット苗木4個体を用いて、木部の水ポテンシャルおよび水分通導度(Ks)の測定、サフラニンによる通導部位の染色、cryo-SEMによる木部内の水分布と壁孔壁の観察を行った。その結果、乾燥の進行に伴う通水機能の低下には、仮道管の空洞化に加えて、壁孔の通水抵抗の増加が関与する可能性が示唆された。 広葉樹の通水機能の回復性は、空洞化した道管が再び水で満たされること(再充填)によって起こると考えられている。道管の再充填による回復性は種によって様々であるが、種特有のどのような生理的特性が種間差に影響するのかについては明らかにされていない。本研究では、回復性の異なる落葉広葉樹6種のポット苗を用いて、木部の構造的特性や、湿潤時と乾燥時の樹体の各種生理活性を求め、これらと通水機能の回復性との関係性を評価した。その結果、回復性の種間差には、湿潤時の光合成能力の高さや幹の可溶性糖含量の高さが関与していると考えられた。さらに、乾燥時の葉の活性の高さが、乾燥下における葉から幹への糖の転流や空洞化した道管への糖の輸送に寄与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に行った、様々な生活形を有する樹種のキャビテーション抵抗性と木部通水機能の回復性の結果については、本年度、論文として公表することができた。また、初年度から2年目にかけて、予定を前倒しして行ってきた乾燥地域に生育する樹種の吸水特性の結果については、すでに一部について論文として公表することができており、その他にも論文を投稿中である。また、これに関連した他種との種間関係の結果についても、その一部を論文として公表することができた。また、これまで通水機能の回復性について継続的に解析を進めていく中で、木部のキャパシタンスの他に、樹木の生理活性の影響も非常に大きいことが想定されたことから、これまでのキャパシタンスの解析に加えて、樹体の生理活性や木部構造についても評価を行った。その結果、非常にクリアーで極めて新しい知見を得ることができた。これについては、早期に論文として公表できるよう準備を進めているところである。更に、広葉樹と回復性のメカニズムの異なる針葉樹についても、回復性のメカニズムの解明に向けた極めて有効な結果を一部得ることができた。このような状況を踏まえて、2の概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
木部の通水機能の回復性と乾燥ストレス時の木部キャパシタンスの関係性についてこれまで継続的に解析を進めているところである。これまでキャパシタンスの評価については、Meinzer et al. (2003)の方法に基づき、細かく切り分けた材を用いて強制的に脱水を行い、その時の重量変化をもとに評価してきた。しかしながら、この方法による脱水過程において、木部からの水の抜け方が着葉状態と異なる可能性が観察されたことから、着葉状態での脱水過程を考慮したキャパシタンスの再評価を本年度行い、これまで得られた結果をあわせて総合的に評価する予定である。また、現在投稿中の1本の論文に加え、広葉樹の回復性に影響を与える樹体の生理特性について新たに得られた知見について、論文として公表できるように準備を進めていく予定としている。
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