研究課題
2014年度は調査森林流域において平水時調査と降雨時調査を行った。平水時の渓流水中の硝酸イオンの酸素安定同位体比は、硝化由来の硝酸イオンの酸素安定同位体比に近く、平水時は大気降下物由来の硝酸イオンがほとんど流出していないことが明らかになった。今年度の降雨時サンプルは硝酸イオンの酸素安定同位体比測定できていないが、去年の結果から、降雨時には大気降下物由来硝酸イオンが流出していることが明らかになっている。今後、平水時と降雨時のデータを統合してL-Qモデルにより年間の大気降下物硝酸イオン流出量を算出し、それを本流域への硝酸イオン流入量から差し引くことで、生態系全体の大気降下物由来硝酸イオンの利用効率を明らかにする予定である。土壌水中の大気降下物由来の硝酸イオン移動量には季節性が見られず、林内雨による硝酸イオン流入量にほぼ依存した。大気降下物由来の硝酸イオンが林内雨による硝酸イオン流入量に影響されていたことから、L-Qモデルで年間の大気降下物硝酸イオン流出量を算出する際には季節ごとの林内雨による硝酸イオン流入量を考慮する必要があると考えられる。流域内3斜面のそれぞれ上部と下部において土壌を採取してKCl抽出を行い、土壌中の硝酸イオン濃度と硝酸イオンの酸素安定同位体比を測定した。ただし、多くの地点では土壌中の硝酸イオン濃度が極めて低く、硝酸イオンの酸素安定同位体比を測定できたサンプルは一部であった。測定できた硝酸イオンの酸素安定同位体比は-0.2から26.6‰であり、土壌抽出溶液中の硝酸イオンは土壌水中の硝酸イオンと比べて大気降下物由来硝酸イオンの割合が低いと考えられた。このことは硝化由来の硝酸イオンよりも大気降下物由来の硝酸イオンの方が流出しやすいことを示していると考えられるが、測定サンプル数が少ないため、今後測定サンプル数を増やす必要がある。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的の達成のためには降雨時の渓流水質調査、降水質調査、土壌水採取調査、土壌調査が必要不可欠であるが、そのすべての機器設置を1年目から開始することができている。また試料の採取も1年目からできているため、データの蓄積もなされてきた。目的の一つである、森林生態系における大気降下物により流入した硝酸イオンの利用効率に関しても定量的な結果が得られ始めており、また、土壌中における大気降下物由来の硝酸イオンの利用・移動過程についても明らかになりつつあるため評価を「おおむね順調に進展している。」とした。
上記のようにこれまでの研究はおおむね順調に研究を進めることができた。そのため今後の研究推進方策は申請書の計画どおり、平成27年度中ごろに調査、分析を終了し、解析に専念する。また積極的に成果を発表してゆく予定である。
今年度は質量分析計の調子が悪かったため、予定数の酸素安定同位体比分析を行うことができず、質量分析計関係の消耗品のための予算が余った。
次年度は今年度に分析が行えなかった分、分析が増える予定であるのでその消耗品費に充てる予定である
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陸水研究
巻: 2 ページ: 27-37