本課題では、樹木木部の形成について、炭素の供給源となる光合成と関連づけることで、木部細胞形成に要する時間や各細胞壁成分堆積のタイミングを明らかにすることを目的としている。炭素の安定同位体で細胞壁を標識した樹木を作出した上で、安定同位体質量分析法(IR-MS)や二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた同位体イメージングにより標識炭素について分析し、光合成で取り込まれた二酸化炭素由来炭素の樹木内での挙動を解析する。 H25年度には木部形成中のポプラ若木で13C標識二酸化炭素投与後1日以内に標識13Cが木部細胞壁に検出されること、さらに細胞壁内に顕著に13C濃度の高い層を形成していることがわかった。これらの結果より二次木部形成中の樹木では、光合成産物の一部は速やかに木部に輸送されて細胞壁に取り込まれることが示された。 そこでH26年度は標識13Cを取り込んだ成分に関する分析を行った。その結果、13C標識二酸化炭素投与後24時間以内には、多くの標識13Cが可溶性の状態で存在することがわかった。可溶性の13Cは二酸化炭素投与後の経過時間に伴い増加したが、この13Cの分布やどの成分に由来するのかを明らかにするには至らなかった。一方、細胞壁成分として固定された13Cも経過時間に伴い増加し、同位体イメージングの結果と一致した。これらはセルロース、ヘミセルロース、リグニンの各成分に分配されており、細胞壁堆積に堆積した13Cが検出されるごく初期の段階から各細胞壁構成成分に13Cが取り込みまれていることが明らかとなった。また、本課題で得られた結果から、同位体パルスラベリングとイメージングを含めた同位体の検出による手法が木質細胞壁形成機構の研究に有用であることが示された。
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