研究実績の概要 |
リグニンの重合化は植物ペルオキシダーゼ(Prx)によって触媒されることが知られている。しかし、大部分の既知Prxがシリンギル(S)型モノマーや、モノマーラジカルのカップリング相手となるオリゴマーを酸化できないという事実は、植物細胞壁におけるリグニン重合反応機構に疑問を投げかけてきた。本研究は、リグニン生合成に関わる3つのPrx(AtPrx2/25/71)の(1)酵素活性と(2)タンパク局在を解析し、以下の結果を得た。 (1)リグニン生合成に関与するペルオキシダーゼの酸化能 4種の組換えタンパク(rAtPrx2/25/53/71)の作製および精製法を確立した。AtPrx53は既知の代表的なPrxの一つであり、リグニン生合成には関与しない。予想していた通りrAtPrx53はG型基質(→guaiacol)に対して高い比活性を示したが、S型基質(→2,6-DMP)に対する比活性は極めて低く、また、高分子化合物であるシトクロムcを酸化できなかった。一方、rAtPrx2/25/71はいずれも2,6-DMPに対しrAtPrx53以上の比活性をもち、さらにシトクロムcを酸化できた。以上の結果から、リグニン生合成に関与するPrxは、関与しないPrxとは異なり、リグニン形成反応を触媒可能であることが明らかとなった。 (2)AtPrx2/25/71の局在解析 AtPrx2/25/71がいつどこでリグニン生合成に寄与するのか明らかにするため、レポーター遺伝子を用いた局在解析を行った。AtPrx2/25/71の各シグナルペプチドとEGFP融合タンパクはいずれも細胞壁、または細胞膜で検出された。また、GUS遺伝子を用いたプロモーター解析の結果、主に、AtPrx2は根、AtPrx25は後生木部や葉脈、AtPrx71は原生木部を含む若い組織でリグニン生合成に寄与することが示唆された。
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