研究実績の概要 |
日本の木造住宅の構造躯体には針葉樹材が多く用いられており,その中でもスギは最も多くの構造部位に用いられる樹種のひとつである。針葉樹材の主な腐朽原因となるのが褐色腐朽菌であることが知られている。そこで,褐色腐朽菌Fomitopsis palustrisおよび全ゲノム配列が公開され褐色腐朽菌の世界的スタンダードであるPostia placenta の2菌種がスギ材を腐朽する際に放散するMVOCを比較した。その結果,供試菌2菌種それぞれがスギ材腐朽時に特異的なMVOCを放散することを明らかにした。また,Fomitopsis palustrisとPostia placentaは同じ褐色腐朽菌であるにもかかわらず,2菌種から放散されるMVOCは半数以上が異なる化合物であったことから,菌種特異的に放散されるMVOCが多く存在することが示唆された。一方,2菌種に共通して放散されるMVOCのうち,スギ材上での培養で一貫して放散されるMVOCが4種あったことから,これらの化合物が褐色腐朽菌の生育を示すマーカー物質となる可能性を見出した。また,Fomitopsis palustrisによるスギ材腐朽の初期段階で2,4-hexadien-1-ol が検出された。褐色腐朽菌が木材成分を分解するメカニズムのひとつにH2O2とFe2+によるフェントン反応で生じるヒドロキシラジカルが関与した酸化分解が提唱されており,H2O2の生成経路の一つとして,不飽和第一級アルコールと酸素を基質としたアリルアルコールオキシダーゼ(AAO)による酸化還元反応が提案されている。本研究においてFomitopsis palustrisから検出された2,4-hexadien-1-olは不飽和第一級アルコールであり過酸化水素の供給源として,フェントン反応ベースの木材分解に関与する可能性が示唆された。
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