研究課題/領域番号 |
25850127
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
津留 美紀子 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 技術主事 (60399574)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | セルロース / ナノファイバー / セルラーゼ / 酵素活性測定 |
研究概要 |
本研究の目的は、セルラーゼの活性測定に、セルロースが酵素加水分解に伴い体積減少する過程を指標とする全く新しい方法論を確立することである。具体的には、ナノファイバーセルロースからなる基質の表面にピエゾインクジェット式極微量分注装置を用いて数十pLの酵素溶液を滴下し、酵素加水分解の進行とともに基盤表面に形成される凹みの体積を、表面形状計測が可能な3D レーザー顕微鏡を用いて経時的に精密測定する。得られた酵素反応時間と凹みの体積変化から加水分解速度を求める方法を確立する。本年度は、セルラーゼをインクジェット式分注装置で極微量滴下するためのピエゾ駆動条件(駆動電圧、パルス間隔など)を検討し、最適滴下条件(10pL/dot)を決定した。ナノファイバーセルロース基板表面にセルラーゼを20~100pL滴下して、室温条件下で酵素反応を行い、酵素滴下量に伴う凹みの体積変化を経時的に計測し、酵素加水分解速度を比較した。その結果、加水分解に伴うナノファイバーセルロース基板の凹み体積の増大により得られた酵素反応速度は、酵素滴下量と相関関係にあった。凹みの体積が基質の消失を表すことから、体積量をセルロース分解量に換算すると、数ng程度の微量な加水分解量を検出していることが明らかになった。この実験系で、酵素反応速度の測定に要する酵素反応時間は30分程度であり、このことからも本手法による酵素活性検出は高感度であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度目標にしていた、ピエゾ式インクジェット分注装置を用いたセルラーゼ滴下条件の検討について、ピエゾ駆動条件を最適化でき、一回の酵素滴下実験で形状が均一な凹みを作製できる手法を確立した。並行して実験精度の向上のため実験装置を改良し、1)インクジェット式分注装置に酵素滴下時間を記録する機能を追加し、2)インクジェット式分注装置基板ステージと3Dレーザー顕微鏡試料ステージ装置にサンプルを設置するための治具を作製し、それぞれの装置で認識する酵素加水分解反応位置を統一させた。これらの改良によって、酵素滴下直後から形成する凹みの形状・体積を迅速かつ詳細に計測できる実験系を確立し、酵素滴下量と凹みの相関を明らかにした。 新手法をさらに発展させるために、現在凹みの計測を短時間で計測可能な3Dレーザー顕微鏡(レーザーテック製)を新たに導入し、従来装置で得られた実験結果との比較検討を進めている。その過程でナノファイバーセルロースを基質としたセルラーゼ活性測定法について、ナノファイバーセルロースの材料特性(特にファイバー密度の微視的不均一性)が測定の再現性に大きく影響することが新たに判明したが、ゼラチンゲルとプロテアーゼの組み合わせを用いることで問題を解決出来るメドがたっており、本研究は順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
3%ナノファイバーセルロースを基板にして酵素滴下実験を行った場合、隣接する凹みの体積変化に再現性はみられるが、同一基板でも酵素滴下位置が離れると凹みの体積量、変化量が大きくばらつくことがわかった。これは基板のナノファイバー密度の微視的な不均一性を反映しているものと考えられる。基板の調製方法を様々に変えてファイバー密度の均一化を試みたが、これまでのところ良好な再現性が得られる基質は得られていない。 そこで平成26年度は、微視的なファイバー密度の不均一性が格段に少ないと予想されるゼラチンゲル(ゼラチンナノファイバーからなる多孔質体)を基質として、ゲル表面にインクジェット式滴下装置でプロテイナーゼKを滴下し、酵素加水分解に伴う体積減少を評価することとする。プロテイナーゼK溶液滴下のためのピエゾ駆動条件は既に最適化が完了しており、0.5~2mg/mLの酵素濃度を10pL/dotで再現性よく滴下可能である。また酵素加水分解によるゼラチン表面に凹み形成すること、凹み体積には再現性があることを確認している。ゼラチンゲルで酵素滴下量、濃度、反応温度など様々な酵素反応条件における凹み体積変化を比較し、新規酵素活性測定法の妥当性および定量性を解析する。
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