本研究の目的は、セルロースの酵素加水分解に伴う体積減少を指標とした、セルラーゼ活性測定の全く新しい手法を確立することである。具体的には、ピエゾインクジェット式極微量分注装置を用いて数十pLのセルラーゼ溶液をナノファイバーセルロース基板の表面に滴下すると、酵素加水分解に伴いナノファイバーセルロース表面に凹みが現れ、時間とともに成長していく。そこで表面形状を非接触で計測可能な3Dコンフォーカル顕微鏡を用いて凹みの体積を経時的に精密に計測し、それをもとに酵素反応速度を決定する手法の確立を目指した。 ナノファイバーセルロース表面に20~100pLのセルラーゼ溶液を滴下し、酵素加水分解に伴う凹みの体積を、室温で経時的に測定することによって、30分程度で酵素反応速度を定量的に測定する手法を確立した。凹み形成の際に分解されたセルロースの重量は数ng程度であり、本手法が高感度にセルロースの酵素加水分解を検出できることもわかった。その一方で、測定結果に大きなバラツキがみられた。これは反応基質に用いたナノファイバーセルロースのファイバー密度が微視的に不均一であることに起因すると考えられた。そこでH26年度はファイバー密度の微視的均一性が高いゼラチンゲルとプロテアーゼを用いた反応実験系を構築し、より詳細な検証を行った。プロテアーゼ溶液の滴下にピエゾ駆動条件(駆動電圧、パルス間隔など)を最適化した後、30~120pLのプロテアーゼ溶液をゼラチン基板表面に滴下すると、ナノファイバーセルロース/セルラーゼ実験系と同様にゼラチン表面に凹みが形成された。凹み成長の経時計測から酵素反応速度を10分以内に、再現性よく測定することに成功した。これらの結果から、水に不溶な基質の酵素加水分解速度を、基質の分解量を可視化・定量することで酵素活性を測定する新手法を確立できた。
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