外洋における混合栄養生物の定量とその摂餌圧の見積もりのため、古典的に用いられてきた蛍光標識細菌添加(FLB)法と蛍光プローブを用いた食胞の染色(FCM)を同時に用い、比較検討を行った。栄養塩環境が劇的に変化する中部北太平洋南北横断測線を白鳳丸KH-14-3次航海を利用して観測した。FLB法とFCM法により推定された混合栄養生物密度はFCM法のほうが数倍高かったが、両者には相関が見られた。絶対値の違いは手法の原理の違いによるものと考えられ、FCM法は潜在的な摂餌能力を見積もっているのに対し、FLB法は実際摂餌を行っている生物を計数しているためであると考えられる。 混合栄養生物が全植物プランクトンに占める割合は亜熱帯循環域の内部で有意に高く、窒素やリンといった栄養塩の欠乏が混合栄養生物に相対的に有利な環境を作っている可能性がある。反面、鉄が不足する亜寒帯循環内では混合栄養生物の寄与は小さく、鉄の獲得において混合栄養生物の優位性は大きくない可能性がある。摂餌速度で比較すると、混合栄養生物と従属栄養生物の寄与は全海域でほぼ同等であり、海域ごとの差は見られなかった。今後は両者の摂餌速度を制御する因子の解明が課題となるであろう。なお、これらの成果は論文として投稿準備中である。 同位体標識と超高解像度二次イオン質量分析を組み合わせによる混合栄養生物をめぐる物質循環の直接測定実験は、KH-13-7次航海及びKH-14-3次航海の2航海において、南北太平洋で数回実施することができた。現在、サンプルを処理し、測定条件の検討を行っている。年度中に成果を報告することはできなかったが、測定を継続し、全成果と併せて混合栄養生物をめぐる物質循環とそれを制御する要因の一端が解明されるものと期待する。
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