研究課題/領域番号 |
25850131
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
羽野 健志 独立行政法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (30621057)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | タウリン / カドミウム / 毒性軽減 / 排泄促進 / 肝臓 / 代謝物総体解析 |
研究概要 |
本研究は、魚類の肝機能増進効果をもつタウリンが、有害化学物質の解毒・排泄を亢進させる可能性に着目して研究を進めている。今年度は、タウリンがカドミウム(Cd)の致死毒性を軽減させるとともに、Cdの排泄を促進させる可能性が高いことを海水魚で初めて確認した。 タウリン含有飼料(0、0.5及び5%)をマダイ稚魚に7週間程度投与し①Cd急性毒性試験(無給餌)、②Cd取込・排泄(4週間+3週間)試験(給餌)を行った。さらに肝臓を用いた代謝物総体解析(メタボローム解析)並びに解毒タンパク質(メタロチオネイン(MT))の測定によりタウリンの作用機序を解明することを試みた。 ①Cd濃度0-5.6 ppmの試験海水(計6濃度区)に96時間曝露し生残を調べた結果、タウリン投与がCdの致死毒性を軽減させる結果を得た(ロジスティック回帰による一般化線形モデル)。メタボローム解析では、Cdの解毒に関与する還元型グルタチオン及びデヒドロアスコルビン酸がタウリン処理区でCd濃度依存的な増加を示した。②取込(1,2,4週)、排泄(1,3週)に肝臓中Cd濃度を測定した。取り込み初期のCd濃度が有意に減少するとともに、Cd濃度に基づく排泄速度係数が0%に比べタウリン処理区で約2倍大きく、タウリンによる排泄促進の可能性が示唆された。タウリン0%区での肝臓では、0.5、5.0%区に比べ尿素、β-アラニン、イノシトールが慢性的に異常に増加しており慢性的な肝機能不全を呈していることが推察された。また、MT濃度は、タウリン処理区で増加傾向にあり、これらがCdの害作用軽減に寄与しているものと推測された。 本研究は、タウリンの新たな効能を示すものであり、改めてタウリンの餌料添加の重要性を示唆するものであると同時に、国内のみならず重金属汚染が著しい途上国の海面養殖業においても安全な水産物供給に資する重要な知見となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は以下の2点である。上記のとおり、期待した結果を上げられたことから「おおむね順調」とした。 ①マダイ稚魚にタウリンを一定期間投与後、有害化学物質に曝露し、魚体の生残率や体内蓄積・排泄の差異を確認する。 カドミウム(Cd)を被検物質とし、急性毒性試験、取込・排泄試験を行った。急性毒性試験においては、タウリンによる効果とCdによる毒性を複合的に評価するため、ロジスティック回帰による一般化線形モデルを採用し、オッズ比によるタウリン添加効果を評価した。その結果、タウリン投与により死亡率が0.1~0.4倍になると試算され、タウリンによるCd毒性軽減効果が示唆された。取込・排泄試験においては、タウリン処理によるCd排泄亢進の可能性を強く示唆する結果を得た。 ②肝臓中代謝物の網羅的解析(以下、メタボローム解析)ならびに解毒タンパク質を測定し、タウリンによるデトックス効果の作用機序を明らかにする。 肝臓メタボローム解析により、タウリンの存在が肝臓中代謝物を大きく変動させていることを明らかにした。重金属の解毒に関与するメタロチオネイン(MT)は、タウリンを投与したCd処理区で増加傾向にあった。これらの結果から、断片的ながらもタウリンによるデトックス効果の作用機序を明らかにするための知見は得られたと考えており、26年度以降の研究につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、石油の主要な毒性成分の1種であるフェナントレンを用いた同様の毒性試験、蓄積排泄試験を行い、タウリン等による魚体の生残率や体内蓄積・排泄の差異を確認する。カドミウム試験の結果と併せ、タウリン投与による代表的な有害化学物質に対するデトックス効果を明らかにすることで、数多ある有害化学物質に係るデトックス効果の端緒となる知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果発表のための学会参加旅費として100千円計上していたが、学会に参加できなかったため。 H25年度の成果を発表するためのH26年9月開催の学会参加費用に充当する予定である。
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