研究実績の概要 |
本研究では,サケ科魚類に感染して肝炎と基底細胞癌を引き起こすOMV (Oncorhynchus masou virus; SaHV-2) を対象に,前回の科研(若手B, 課題番号22780168)で明らかにした全ゲノム情報をもとに感染魚における包括的高感度遺伝子発現解析を展開し,宿主の発癌誘起機構を解明することを目的とした。OMVはアロヘルペスウイルス科のウイルスで,魚類で初めて発見された癌ウイルスである。このウイルスは1978年に分離されて以来,我が国の増養殖現場で猛威を振ってきた。病気に強いシロサケに高い死亡率を示す唯一のウイルスであり,本ウイルスによる病原機構の解明は,サケ科魚類の増養殖における安定的生産に必須である。 本年度は,まず腫瘍が確認されたサクラマス (Oncorhynchus masou) の脳を対象に,whole-mount in situ hybridization (WISH) によるウイルス特異遺伝子の局在を観察した結果,終脳と小脳に強い陽性シグナルを認め,OMVが神経系に潜伏することを明らかにした。次いで腫瘍組織におけるウイルス遺伝子の局在解析の結果,ウイルス特異遺伝子は組織の広範囲に検出され,特に腫瘍外縁部に強い陽性シグナルが認められた。腫瘍組織を対象に包括的高感度遺伝子発現解析を実施した結果,腫瘍組織で発現亢進が認められる腫瘍関連遺伝子が見出された。
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