本年度は、昨年度につづき、福井県産の天然トラフグを購入して解析家系を作出し、成長、生残、およびヘテロボツリウム症耐性試験を行った。昨年度の結果から、成長と生残に関する遺伝効果はオス親では検出可能だが、メス親については生理状態の差による母性効果の影響が強いために検出できないことが分かったため、オス10個体とメス1個体とを交配した半同胞10家系を作出して実験に供した。 ゲノミックセレクションをddRAD-seq法で行う予定であったが、トラフグの性決定遺伝子周辺の領域でのLDサイズが小さいことが予想されたことから、天然魚をリシーケンスしてLDの推定を行った。本年度に購入したオス10個体と比較群として愛知県産トラフグのオス10個体とについて、被覆度が10xとなるように全ゲノムリシーケンスを行い、変異解析を行った。連鎖不平衡解析から推定されたLDサイズは予想通り小さかった。遺伝的効果の高いSNPを高解像度で取得して推定精度を上げるにはddRAD-seqよりも多くSNPのとれるRAD-seq法を行うべきであるが、少数の親魚から選抜育種を行うには、ddRAD-seqでも可能であると予想された。 また、親魚の遺伝的多様性を評価するために、その結果、両地域ともSNP頻度は1SNP/600bp程度となり、これまでに取得しているトラフグ属近縁種に比べてやや低い値となった。また、ヘテロ接合率は観測値が期待値よりも過剰に大きく、どの個体もF=-0.5程度であった。このことは、最近にボトルネックを起こし、集団サイズが縮小した可能性を示唆している。しかし、集団サイズについてはサンプル数が少なく正確さが低いデータしか得られなかった。もし、集団サイズの縮小が起きていたのなら、天然親魚の数を可能な限り増やす必要があると予想された。
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