研究課題/領域番号 |
25850138
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
渡辺 佑基 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (60531043)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオロギング / 行動生態 / 魚類 |
研究実績の概要 |
平成26年4月上旬、タスマニア島(豪)の周辺海域においてエビスザメの生態調査を実施した。計四匹のサメを釣り上げてボートに上げ、すばやく記録計、ビデオカメラ、電波発信器などを組み込んだパッケージを取り付けて放流した。パッケージは予定通り、タイマーで数日後に切り離され水面に浮かび、すべて回収することができた。 同年4月下旬から5月上旬にかけて、キャット島(バハマ)の周辺海域においてヨゴレの生態調査を実施した。計四匹のサメを釣り上げ、エビスザメと同様にパッケージを取り付けて放流した。そのうち一匹は予想外に遠くまで泳ぎ去ってしまい、機器を回収することができなかった。その他の三匹については、予定通り機器を回収することができた。 そのようにして集めたデータに、文献から収集したデータも合わせ、内温性をもつ魚類がそうでない魚類に比べて速く泳ぐかどうかを検討した。体の大きさや系統関係の違いを反映させる統計手法を用いて比較したところ、内温性をもつ魚類は同サイズの普通の魚類に比べ、2.7倍速く泳ぐことが明らかになった。 また、魚類の年間の回遊距離のデータを文献から集め、体の大きさや系統関係の違いを反映させる統計手法を用いて比較した。内温性をもつ魚類はそうでない魚類に比べて、2.4倍も回遊距離が長いことがわかった。内温性をもつ魚類は速く泳ぐことができるため、一年間という限られた時間の中で、より広範囲を回遊することができることが明らかになった。広範囲の回遊ができれば、季節的な環境の変化(エサの増減など)に柔軟に対応できるため、生存に有利にはたらくと考えられる。このようなメリットが高いエネルギー要求量というデメリットを上回ったからこそ、内温性をもつ不思議な魚類が進化したのだと示唆された。 この結果をまとめた論文を、アメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
幅広い魚種から行動データを集めることができ、そのおかげで内温性をもつ魚類とそうでない魚類の本質的な差を見つけることができた。この結果をまとめた論文がアメリカ科学アカデミー紀要という世界トップクラスの科学雑誌に掲載されたのは、予想以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
予定通りに研究を推進していく。幅広い種のサメから行動データを収集しながら、内温性をもつ種ともたない種にどのような差が見られるのか、検討を続けていく。とりわけ代謝量や遊泳コストに注目し、内温性をもつ魚類がエネルギー収支の観点からどのようなメリット、デメリットを抱えているのかを検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルゴス送信機の通信費が使用状況に応じて変動したため。
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次年度使用額の使用計画 |
記録計を動物から切り離すための装置を購入する。
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