昨年度までに魚類においても生育中のエネルギー代謝が変わることによりストレス応答に変化を引き起こし,さらにエネルギー代謝の改変が食品としての品質劣化の改善に関与すること,生育中のエネルギー代謝の違いがタンパク質の同化異化サイクルを活発にしているだけではなく,骨格筋の代謝を左右することが水揚げ後に商品となる致死後の筋肉の品質に関与することが示唆された.そこで本年度ではこれらエネルギー代謝,ストレス応答および骨格筋代謝のネットワークについて詳細な検討を行った.具体的にはゼブラフィッシュを用いて生育中のエネルギー代謝の差異がストレス応答および骨格筋代謝にもたらす作用についてLC/MS-MSによるメタボローム解析を行った.また,魚類筋培養細胞を用いて,代謝促進作用を確認しているオリザノールが直接筋細胞の分化に関わるかを検討した.さらに,次世代への影響としてオリザノールを給餌し,ストレスを与えたゼブラフィッシュの精子活性を測定した. 多変量解析に供することでオリザノール投与により特徴的に変動する代謝物を検討したところ,ゼブラフィッシュの筋肉中でATP代謝関連物質が増加したことから,ゼブラフィッシュの筋肉中でのエネルギー代謝が活発になっていることが考えられた.また,ニジマス筋芽細胞ではオリザノールによる筋分化関連遺伝子の発現に変動はなく,直接筋分化には関係していないことが明らかとなった.また,オリザノールは精子活性を上げる傾向があることを示した. これまでの結果を踏まえ考察した結果,エネルギー代謝の改変はタンパク質合成系を促進させ,オートファジーに影響を及ぼすこと,ストレス応答を緩和させることで品質にも影響を及ぼすことを示唆した.
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