甲殻類の内分泌中枢であるX器官/サイナス腺で産生される卵黄形成ホルモン (VIH) の制御メカニズムを解明するため、昨年度に引き続きクルマエビの培養卵巣片で発現している遺伝子の網羅的解析を行い、甲殻類雌性ホルモン、ニューロパーシン、甲殻類血糖上昇ホルモン族など複数のホルモン様因子が卵巣で発現しているという知見を得た。他の甲殻類や昆虫において成熟制御への関与が示唆されるこれら因子のキャラクタリゼーションにより、末梢組織の寄与を組み入れた新たな成熟制御メカニズムの解明につながる。
VIHの作用をタンパク質レベルで把握する端緒として、卵巣に含まれるタンパク質の網羅的解析を質量分析装置を用いて行った。上述した遺伝子の網羅的解析により構築したデータベース、およびBLAST解析に基づいて150種類のタンパク質を同定した。このうち約半数は遺伝子の転写、翻訳過程に関わるもの、1/4は代謝に関わるものであった。また、昆虫において生殖細胞の雌化に関わるsex-lethal、生殖細胞の形成を制御するpumilio、生殖細胞の維持に必須とされるpiwiなどをタンパク質レベルで同定することができた。
雄性生殖器官に付随する造雄腺から分泌される糖ペプチドホルモンであるインスリン様造雄腺因子 (IAG) の活性検定を卵巣の培養系を用いて行った。その結果、造雄腺抽出物および化学合成したクルマエビIAGについて、卵黄タンパク質前駆体であるビテロジェニンの遺伝子発現を抑制する活性が認められた。IAGによるビテロジェニン発現抑制機構とVIHによるそれとを比較することにより、成熟制御機構の理解が深まると考えられる。
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