本研究では,フグ毒テトロドトキシン(以下,TTXと略記)のヒト消化管吸収機構を明らかにするため,ヒト大腸癌由来Caco-2細胞を利用して,TTXの吸収機構を調べた。 本研究1年目(H25年度)は,Caco-2細胞単層膜による評価系を立ち上げた。Caco-2細胞単層膜にTTXを添加し,経時的にTTXの透過量を測定する実験系を構築した。 2年目(H26年度)は,Caco-2細胞単層膜によるTTXの輸送速度を調べた。2種類の緩衝液を用意してpH勾配の影響を評価したところ,輸送速度に有意差は認められず,pH勾配の影響は見られなかった。温度を37℃から4℃まで低下させると,TTX輸送速度は顕著に低下したことから,Caco-2細胞によるTTXの輸送は,細胞間隙輸送ではなく,細胞表面から細胞内部へ吸収されて再び細胞外へ輸送される経細胞輸送であることがわかった。 最終年度(H27年度)は,TTXの輸送に関わるトランスポーターを明らかにするため,Caco-2細胞のTTX輸送に及ぼすトランスポーター阻害剤の影響を調べた。Caco-2細胞単層膜による吸収方向のTTX輸送量は,p-アミノ馬尿酸(PAH)添加区において,対照区の7割まで低下したが,L-カルニチンおよびテトラエチルアンモニウム(TEA)添加区では,対照区と同レベルであった。Caco-2細胞内に残留しているTTX量は,PAH,TEAおよびL-カルニチン添加区では,対象区と比べ5割から6割まで低下した。また,緩衝液中のナトリウムイオンをコリンに置換すると,TTX輸送量と細胞内残留量は対象区の2割から4割まで低下した。以上の結果から,Caco-2細胞単層膜によるTTXの吸収方向の輸送には,緩衝液中のナトリウムイオンの存在に依存性を示す,いくつかの有機イオントランスポーターが複合的に関与していると考えられた。
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