本研究は産業組織論の分析枠組を用い、農産物や食品の原料調達から消費に至る流通過程の競争環境や価格伝達を明らかにすることを目的とした。フードシステムにおける垂直的・空間的競争を把握するため、マイクロデータを用いた不完全競争分析、空間的競争に関する分析、双方寡占を踏まえた不完全競争モデルについての理論・実証分析、フードシステムにおける価格伝達等のシミュレーション分析の4つを小課題として設定した。 マイクロデータを用いた不完全競争分析では、我が国の食品産業を対象とし、産業小分類ごとの市場構造を明らかにしたほか、市場支配力に関する計量経済分析を行い、企業レベルの市場支配力を明らかにした。また、ビール系飲料を対象とした計量経済分析では、製品差別化を考慮し、ノンアルコールビールを含むブランドレベルの消費者需要と市場支配力を明らかにした。 空間的競争に関する分析では、価格競争の空間的影響に関するシミュレーション分析を行い、店舗の立地が競争環境や企業の収益性に与える影響について、新たな視座が提供された。また、空間的競争に関する実証分析では、農産物直売所の立地要因に関する計量経済分析を行うとともに、空間的な市場構造の分布の効率的な計測方法について検討を行った。 双方寡占を考慮した不完全競争の分析では、従来の不完全競争モデルを発展させ、売り手と買い手がともに寡占的な状況を考慮した不完全競争モデルについて検討した。その上で、我が国の食品産業を対象とし、市場支配力に関する計量経済分析を行った。 最終年度に実施したフードシステムに関するシミュレーション分析では、貿易環境の変化に関する応用一般均衡分析を行い、将来の様々な貿易環境がフードシステムを通じて我が国の農業や関連産業に与える影響を明らかにした。その際、不完全競争を考慮したモデルについても検討し、モデルの違いによる効果の違いについても示した。
|