本研究の目的は、WTO農業交渉やFTA、TPP交渉に代表される、現在進行中の国際農業交渉について計量分析を行い、主要輸出入国の受ける影響と、貿易交渉における主要各国の戦略について考察することである。そして、その分析結果から、各国の貿易交渉における戦略とその背景を明らかにし、日本の交渉戦略について提言を行うものである。 本年度は、昨年度から引き続き研究を行っていた、農産物貿易自由化による我が国農産物価格の変動について、成果として発表した。 さらに、輸出国家貿易、輸出補助金、関税等を考慮可能な国際農産物貿易モデルにより、国際農業交渉における交渉戦略に関するシミュレーション分析を行った。この研究では、WTO農業交渉やTPP交渉における議論を踏まえ、特に農産物輸出国間での利害の対立について分析を行った。 その結果、現在の農業交渉の議論を踏まえた貿易自由化進展の方向性は、WTO農業交渉かTPP交渉かを問わず、米国にとっては輸出を拡大できる方向性であることが明らかとなった。また、その他の多くの主要輸出国にとっては、自国の貿易政策(輸出国家貿易や輸出補助金)の撤廃、削減をできるだけ抑えることが、貿易利益の確保のために重要であることが明らかとなった。 つまり米国は、その強力な交渉力でもって、どのような状態においても自国の利益を確保しながら、さらに拡大できる利益については拡大するよう、強かな貿易交渉を行っていると考えられる。
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