研究課題/領域番号 |
25850153
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名寄市立大学 |
研究代表者 |
清水池 義治 名寄市立大学, 保健福祉学部, 講師 (30545215)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地域ブランド / 地域空間 / ブランド・エクイティ / 地理的表示制度 / 生産者組織 / 認証規程 / 幸福度 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本およびフランスを対象として、地理的表示制度の下で組織される生産者組織の実践によって、実現される製品ブランド・エクイティ(ブランドの持つ資産価値)の向上を通じて起こる地域空間ブランド・エクイティへの波及効果を解明することである。平成25年度の研究実績は、主として日本の事例に関するものである。 第1に、地理的表示制度の政策体系と認証規程・生産者組織の位置づけを明らかにした。EUの原産地呼称保護制度(PDO)とフランスの地域自然公園制度(PNR)は全国的な法制度にもとづいて、認証規程の基本的な内容や生産者組織の位置づけが定められている。特に、認証規程を定める機能が生産者組織に付与されている点が重要である。それに対して、北海道A地域におけるブランド認証制度は、それを裏付ける全国的な法制度がなく、認証を受けた生産者から組織される生産者組織が制度的に位置づけられていない。そのため、ヨーロッパの制度で確認される、生産者組織による認証規程策定を通じた、生産および販売の生産者間における集団的な調整機能が、日本の事例では見られない。 第2に、地域空間ブランド・エクイティを示す指標を検討した。地域空間ブランド・エクイティを示す指標として、人口・観光客数・産業産出額といった客観的指標、または地域住民や消費者の自己申告にもとづく「幸福度」といった主観的指標が考えられる。客観的指標は、同一基準かつ客観的数値で比較できるため地域間の比較に適しているが、地域住民や消費者の意識と客観的指標にもとづく結果が乖離する事例が見受けられる。一方、主観的指標は地域住民や消費者の意識をストレートに表すが、主観的指標の変動要因をそれ自体から把握することは難しい。以上のことから、地域空間ブランド・エクイティの把握するためには客観的指標と主観的指標を組み合わせて用いるのが望ましいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの達成度を「やや遅れている」とした理由は、第1に、地理的表示制度下の生産者組織の実践を通じた地域空間ブランド・エクイティへの波及効果の解明が部分的にとどまったためである。その原因の多くは、平成25年度に予定していたフランスの現地調査を平成26年度に変更したことによる。ただ、北海道A地域の地域ブランド認証制度の事例からは一定の成果が得られた。すなわち、地方自治体主体の認証組織という性格上、生産者選別的な制度設計を回避したため、認証規程の基準がさほど厳しくない。また、認証規程に関与する生産者組織が制度的に位置づけられていないため、認証規程は認証を受けた生産者の行動を律するものとしてあまり作用しておらず、認証を受けた生産者の緩やかなネットワーク形成にとどまっている。また、認証規程が一般的な内容となっているので、地域住民や域外消費者の認知度は高いとは言えない。その結果、同認証制度は生産者にとって、特に販売面での重要性は限定的であり、地域空間ブランド・エクイティへの波及効果は小さいという予備的結果が得られている。 第2として、研究成果の社会還元である論文投稿数が当初の予定を下回ったためである。平成25年度の論文投稿は、地域空間ブランド・エクイティを示す客観的および主観的指標の特徴を検討した論文(平成25年度内に掲載済)の1本にとどまり、地理的表示制度下の生産者組織の実践を通じた地域空間ブランド・エクイティへの波及効果に関する成果は論文投稿まで至らなかった。この要因は、上述したように、計画していたフランス現地調査を平成26年度に変更したためである。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度が上述のような結果となったのは、原産地呼称保護制度(PDO)と地域自然公園制度(PNR)の事例に関するフランス現地調査が平成25年度中に実施できなかったからであった。 そのため、平成26年度は、地域空間ブランド・エクイティの高くないと思われるフランス中央山塊地域における原産地呼称保護制度および地域自然公園の事例調査を、平成26年度中に複数回実施する計画である。対象品目は、チーズなど酪農品を予定している。その場合、厳格な認証規程を有する原産地呼称保護制度と、全国的な統一基準があるもののある程度の地域性も許される認証規程を有する地域自然公園制度とでは、製品ブランド・エクイティの地域空間ブランド・エクイティへの波及効果のメカニズムに違いがあると予想される。認証規程を通じて生産者間に生じる生産・販売の集団的調整機能、ならびに地域に存在する生産者および生産者組織を構成する生産者の均質性に注目して事例分析を行う。特に、地域内に存在する生産者が均質でない場合、生産者組織の認証規程の厳格さと地域内の生産者組織率とがトレード・オフ関係になり、結果的に地域空間ブランド・エクイティへの波及効果を弱める逆効果の有無に焦点を当てる。 また、平成25年度の研究成果として、北海道A地域の地域ブランド認証制度が及ぼす地域空間ブランド・エクイティへの波及効果は小さいという予備的結果が得られたが、平成26年度は追加調査を行い、結論を精緻化したうえで、平成26年度中の論文投稿を計画している。本研究の目的達成に必要と判断した場合は、調査対象とする事例を追加する対応を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は旅費支出が当初予定を下回ったが、これは平成25年度中に予定していたフランス現地調査を、平成26年度に変更したためである。 平成26年度は、フランス中央山塊地域における原産地呼称保護制度および地域自然公園の事例調査を、平成26年度中に、当初予定より多い複数回実施する計画である。そのための旅費を支出する予定である。また、現地調査を円滑に進めるため、研究協力者の協力を得る必要がある。フランス在住の研究・企業コーディネーターで日仏英3ヶ国語に堪能な研究今日局社に支払う謝金と旅費を支出する予定である。
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