本研究の目的は、日本およびフランスを対象として、地理的表示制度の下で組織される生産者組織の実践によって、実現される製品ブランド・エクイティ(ブランドの持つ資産価値)の向上を通じて生じる地域空間ブランド・エクイティへの波及効果を解明することである。平成28年度の研究実績は以下のとおりである。 北海道A地域の自治体等で組織される団体が運用するAブランド認証制度には、食品の衛生管理水準や原材料の使用ルールといった統一的な基準を設け、この基準をクリアさせることで地元の中小事業者の衛生管理水準や技術水準を底上げさせる機能があった。国の地理的表示保護制度の登録に向けて共同熟成庫事業に取り組むB事業協同組合の品質基準に、Aブランド認証制度の基準が採用され、参画するナチュラルチーズ工房は、付加価値向上を目指す一連の取り組みとして意識されている。 フランスC地域の地域自然公園は、地域オリジナリティがあり、環境負荷の小さい農業経営体の生産する農産物を対象とした地理的表示制度を運用している。目的は、地域内の農産物の付加価値向上であり、認証基準はPDOといったEUの地理的表示制度より緩やかである。そのため、比較的多い生産者が認証を受けているものの、製品そのものの差別化の程度は弱く、地域自体のブランド・エクイティによる影響を強く受けている。一方、一部の生産者組織はPDOを取得しており、差別化の程度は大きい。これらの製品ブランド・エクイティは、地域自体のブランド価値の向上につながっている。 同じ地理的表示制度でも、制度の目的や設立背景によって期待される効果は異なる。よって、農産物の高付加価値化を目指す地域ブランド戦略を考える場合、当該地域の農業生産者、食品加工業者の現状を踏まえて、複数の地理的表示制度を重層的に活用することも必要と思われる。
|