平成27年度は本研究の最終年度のため、以下の3つの研究課題について成果を取りまとめた。 ①「圃場分散の影響を考慮した農家の効率性分析」については、石川県の大規模水田経営への詳細な実態調査から、農家の圃場分散と集団化の経済の影響を分析に明示的に組み込んだ上で、経営間の稲作コスト及び生産性について要因分析を行った。 ②「圃場整備にともなう農地流動化の効果に関する計量経済学的考察」に関しては、菊島良介・中嶋晋作(2015)「国営かんがい排水事業の地域農業への影響評価―空間ダービンモデルの適用―」『農村計画学会誌論文特集号』,34,267~272.として公表した。具体的には、空間ダービンモデルを用いた推定から、国営かんがい排水事業を実施した地域では農地集積が進展し、耕作放棄地の抑制につながりやすいことを定量的に評価することができた。 ③「農地・水・環境保全向上対策の地域農業への影響評価」については、中嶋晋作・村上智明(2016)「農地・水・環境保全向上対策の実施規定要因と地域農業への影響評価」高崎経済大学地域科学研究所編『自由貿易下における農業・農村の再生―小さき人々による挑戦―』,日本経済評論社,209~226.において成果を公表した。分析では、山形県の農地・水・環境保全向上対策を対象に、向上対策の集落レベルのインパクトを定量的に明らかにした。推定された結果から、農地・水・環境保全向上対策の実施規定要因として、周辺集落のピア効果の存在が明らかとなったこと、農地・水・環境保全向上対策は、農地や農業用用排水路、河川といった地域資源の管理にプラスの影響を及ぼしていること、ただし、これらの効果の発現には地域性があることなどが明らかとなった。 以上、本研究の成果から、農地市場そのものに対する理解の深化と同時に、農地取引を円滑化させる手段について新たな知見を得ることできたと考えている。
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