放牧の有無による土壌水分量・水収支の違い,禁牧による乾燥地草原の水循環回復過程を明らかにすることを目的として,異なる放牧状態にあるモンゴル草地における,浸透量・土壌水分量変化・各種水・熱収支項目の現場観測,および土壌-植物-大気間の水移動理論に基づく草原の水・熱収支予測モデルの作成とこれによる数値計算を行った. 1)現場観測:草原を柵で覆い動物の侵入を防止した試験地内とその外(通常の草地)において土壌の浸透能,土壌水分変化を測定・比較し,禁牧による草原の水循環回復過程を調べた.その結果,放牧の禁止は,枯れ草の残存に伴う土壌面蒸発抑制により植物の生育初期にあたる春先の水分量を増加させること,土壌の浸透能を回復させることで表面湛水やそれに伴う不均一な水の浸潤の発生を防止・軽減する効果を持つことを明らかにした.また,各種水・熱収支項目の連続測定により,植物生育期間中の草原の水循環の特徴を調べた結果,通常の降雨強度の下では,降雨の大部分は蒸発散で失われるため深部への浸透はほとんど生じないこと,土壌水分の変化は表層0~30 cmで主に生じ,この深さの土壌水分が植生の生育にとって重要であることを明らかにした. 2)数値計算:現場観測および室内試験による土壌の物理性の測定結果を下に,草原の水・熱収支を計算可能なモデルを作成・検証した.モデルによる計算値は,実測土壌水分・水・熱収支を比較的良く再現した.また,このモデルを用いて,異なる放牧条件(浸透能,植生の条件)・土性下における草地の土壌水分・水収支変化を計算し,禁牧が草原の水循環に与える影響を調べた.その結果,禁牧による土壌面蒸発抑制や浸透能の増加は,植物の生育に重要な,表層の水分量(植物の利用可能な水分量)を増加させることが明らかになった.
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