中山間地の水田は,その地形的な制約からほとんどが傾斜地水田となっている.これら傾斜地水田,いわゆる棚田は平地に比べて日射量が少なく,気温も低いことから米の収量が低い土地とされている.しかしながら,傾斜地水田の米品質を十分に科学的に検討した例は少なく,またその耕作環境,微気象を始めとする熱環境を詳細に報告したものはあまりない.加えて,それら微気象と米品質との関係を検討したものもないことから,定性的な評価に留まっているのが実態である.そこで本課題では,傾斜地水田いわゆる棚田の耕作環境,とくに微気象と水稲品質の関係を明らかにすることを目的に研究を実施した.研究は宮崎県日南市の坂元棚田を対象に実施した. まず,傾斜地水田群内の日射特性を解明するために,日射量の多点観測を実施した.多点観測をするに当たって簡易日射計に着目して,その測定精度を明らかにした.これを用いて観測した結果を基に計算日射量を算出し,棚田内の日射環境を分析した.これによって棚田内の微妙な日射環境の差異を明らかにすると共に,これによる稲の生育・品質等への影響が小さいことを明らかにした.一連の成果は最終年度に国内学会2件,国際学会1件で発表した他,査読有りの論文1編として成果を発表した. さらに,本研究では棚田の微気象環境とくに熱特性を解明するために,詳細な観測を実施した.観測にはシンチロメータを利用し,とくに最終年度(平成27年)に集中的な観測・分析を行った.その結果,棚田では晴天日2パターンの風が吹き,風向きによって微気象特性が異なることが明らかとなった.とくに弱い南風が吹くとき,その熱特性は平地水田のそれと似ており,今後棚田の熱収支を解明する上で,大変有益な情報となることがわかった.この一連の結果は,国内学会で2件,国際学会で1件,成果を発表した.
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