研究課題/領域番号 |
25850172
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
黒木 信一郎 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00420505)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水伝導係数 / 細胞膜 / 脂質過酸化物 / 二層流法 / プロトプラスト / ポストハーベスト工学 / 非破壊品質評価 / 低酸素貯蔵 |
研究概要 |
本研究は、非破壊・非侵襲的に得られる生体内の水の運動性に関する情報を、破壊的に得られる細胞膜の化学的・物理的性質と関連付けることによって、青果物品質の定量的な評価・診断を実現することを目的としている。初年度はまず、収穫後に細胞膜が受けたダメージの程度を、細胞膜の物理的状態を示す水伝導係数と生化学的状態を示すマロンジアルデヒド(MDA)当量とによって評価すると共に、両者の関係性を明らかにすることを目的とした。ガラス温室にて養液栽培したホウレンソウ葉(Spinacia oleracea L.、cv. ‘オーライ’)を収穫し、異なる酸素濃度下で貯蔵した。チャンバー内のガス濃度は、加湿した所定の酸素濃度(N2: balance)のガスを毎分10 mLで通気させることにより一定に制御した。所定の貯蔵期間終了後のサンプルの一部からプロトプラストを単離し、細胞膜水伝導係数の測定に供試した。また、サンプルの残りは、真空凍結乾燥後、TBARS法によるMDA当量の測定に供試した。実験の結果、水伝導係数、MDA当量共に、貯蔵期間の経過に伴う増加傾向が認められた。また、両者共に低酸素濃度環境では増加が抑制された。水伝導係数が増大する時期は、MDA当量のそれよりも遅れて生じた。この観察結果は、膜透過性が増大する原因が膜脂質過酸化物の蓄積による細胞膜のゲル相脂質領域の形成であるとする従来の報告を支持した。更なるデータ収集により、細胞膜水伝導係数が有意に増大するに至るMDA当量の閾値を明らかにすることで,定量的な鮮度評価指標作成への貢献が期待できると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
収穫後におけるホウレンソウ葉の細胞膜のダメージの程度について、MDA当量と水伝導係数の計測という化学的・物理的性質の両面からアプローチできる実験系を確立した。また貯蔵期間、および貯蔵酸素濃度を因子とし、それぞれ3~4水準の実験区を設定したことによって、老化・劣化段階が段階的に異なるサンプルについてのデータが得られ、膜透過性という物理的性質の変化が膜脂質過酸化物の蓄積という化学的性質の変化に遅れて生じることを明らかにするまでに研究が進展した。さらに、収縮前後の体積変化量と収縮前体積との比で表されるプロトプラストの収縮率が、貯蔵期間の経過と共に変化することを明らかにするなど、新たな発見があった。この結果は、細胞中の固相や水和水等の体積である浸透圧非応答体積が貯蔵条件によっては貯蔵中に変化する可能性を示唆するものであり、今後の詳細な検討を要する。ホウレンソウ葉についての研究が想定を超えて進展したのに対して、キュウリ果実を使用した実験については、試料調整時におけるダメージを最小化した、最適かつ安定的なプロトプラスト作製プロトコールの開発に予想以上に時間を要している。子室部と果肉部とでプロトプラスト収量が異なるなど、組織毎に異なる特性が示唆されていることが原因と考えられる。またこれに伴い、NMR、およびNIRを用いた非破壊・非侵襲的な生体内の水の運動性に関する情報取得にも遅れが見られる。
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今後の研究の推進方策 |
プロトプラストの浸透圧耐性を評価することにより、プロトプラスト作製時の実験操作自体が細胞膜へ与えるダメージを最小化するような単離プロトコールを確立する。また、二層流法による水伝導係数の計測に加え、NMRを利用した拡散透水係数の測定、およびイオン漏出速度の計測を行い、細胞膜の選択的透過性と貯蔵中におけるそれらの変化について評価・考察する。他方、細胞膜機能劣化の化学的な指標として用いてきたMDA当量は、TBARSアッセイによって定量される夾雑物を含んだ脂質過酸化物であるが、ホウレンソウ葉やキュウリ果実を用いた実験により、老化の程度によっては既往の方法による糖補正や濁度補正が効果的に機能しない場合があることが示唆されている。そのため、HPLCやGCなどのクロマトグラフィー技術を用い、より厳密なMDA濃度を定量する。さらに、老化・劣化段階が段階的に異なる青果物個体を対象にNIRスペクトルの計測を行い、ケモメトリックス(多変量解析)技術を適用して、水の運動性と生体膜機能劣化との関係を明らかにする。これにより、個体レベルでの非破壊的な品質評価・診断技術の妥当性について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
顕微鏡関連の消耗品に要した金額が想定より少なかったため。また、NMRによる緩和時間の測定に供試するサンプルの調整プロトコール開発に遅れが生じ、装置の機器使用料金や消耗品など、NMR計測に係る予算を消化できなかったため。 本年度は、昨年度予定していた分も含めて、NMRを使用した実験を行い、昨年未使用となった予算を完全に消化する予定である。予算はNMR機器使用料として執行する他、NMR関連の消耗品、およびNMRスペクトル解析ソフトウェアの使用料等に充てる。また、Windows XPのサポート終了に伴い、顕微鏡などのデータ集録デバイスのハードウェアの更新が必要になると共に、装置の制御やデータ解析に必要なPCも更新が必要となる見込みであるため、これらの消耗品の購入にも使用する見込みである。
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