哺乳類のゲノムの約10%を占めると言われている内在性レトロウイルス(ERV)が、胎盤形態の種差に大きく寄与しているのではないかと申請者は考えた。ERVの多くは、変異や欠失によってopen reading frame (ORF)が失われているが、一部は生理学的な機能を有することが知られている。そこで本申請では、ERVの解析がほとんど進んでいないウシに着目し、胚の伸長から初期胎盤形成時にかけて発現するERVを同定し、その発現制御機構および胎盤形成における機能を明らかにすることを目的とした。次世代シーケンサーを用いたウシ着床周辺期胚の網羅的遺伝子発現解析より、着床期に発現するERVを10遺伝子絞り出した。着床後に発現が増加する5遺伝子について更に検討をすすめ、シークエンス解析及び全身の各組織における発現解析を行い、3つの遺伝子に絞り込んだ。我々が保有するウシin vitro implantation法を用いて発現制御機構を解析した結果、接着刺激によってそれら3つのERVが発現誘導されることが分かったが、分子メカニズムなどの詳細の解明までは至らなかった。このERVは妊娠150日の胎児胎盤でも発現しており、胎盤の維持に必須の役割を演じていると考えられるが、機能の詳細についてもさらなる検討が必要である。また、その他のERV2遺伝子に関しても同様な検討を行った。2つの遺伝子は着床前の胚に発現が高く、着床後に発現がなくなるERVであった。これら2つの遺伝子のうち1つは胚特異的に発現していることが分かったが、その機能については今後の検討課題である。以上の検討は、ウシ着床周辺期胚に発現するERVを絞り出し、胎盤形成に関与しているであろうERVを見出したが、その詳細な機能については今後の検討課題となった。これらの解析結果は現在投稿中または投稿準備中である。
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