研究課題/領域番号 |
25850189
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
林 憲悟 独立行政法人農業生物資源研究所, 動物生産生理機能研究ユニット, 研究員 (70563625)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 妊娠 / 胎盤 / ウシ / アドレノメデュリン |
研究概要 |
本研究は、強力な血管作動性物質の一つであるアドレノメデュリン(AM)に着目し、そのウシ妊娠中の胎盤機能の局所調節機構における生理的役割を明らかにすることを目的とする。今年度は以下の研究を実施した。1)ウシ妊娠に伴う末梢血中AM分泌動態を決定する。ホルスタイン種未経産牛に人工授精を施して受胎させ、妊娠期間(約9ヶ月)を通して週に一度および分娩1カ月後に採血を行い、市販のELISAキットを用いて血中AM濃度を測定した結果、血中AM濃度は妊娠前期および後期で高いことが明らかとなった。この血中動態は胎盤における遺伝子発現動態と概ね一致しており、胎盤由来の血管作動性物質が母体の末梢血中に反映していることが示唆された。 2)ウシ胎盤を構成する栄養外胚葉細胞におけるAMの作用機序を解明する。将来的に受胎が成立すると胎仔側胎盤を構成する細胞集団である栄養外胚葉細胞を、胚盤胞を継続して培養することにより作出した。この細胞にAM(10nM)を処置して24時間培養し、遺伝子発現動態の変化を15kウシオリゴDNAマイクロアレイにより解析した。その結果、AM処置により発現が増加した231 遺伝子と減少した73 遺伝子が同定された。また、遺伝子オントロジー解析の結果、AM処置で発現が増加した遺伝子は、主に脂質生合成、細胞増殖、タンパク質輸送やアポトーシス調節に関わる遺伝子で、減少した遺伝子には細胞骨格形成や細胞接着に関わる遺伝子が多いことが明らかとなった。これより、AMはウシ栄養外胚葉細胞において細胞増殖や遊走などにも関与している可能性が示され、胎盤機能調節因子として作用していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、妊娠期間中の末梢血中AM濃度を経時的に測定することで、ウシの妊娠経過に伴うAMの内分泌動態を初めて明らかにし、妊娠中の胎盤局所で産生されるAMと母体の体循環との関連が示された。また、ウシ胎仔側胎盤を構成する栄養外胚葉細胞にAM処置を施し、マイクロアレイによる遺伝子プロファイルの網羅的解析を行うことで、AMにより特異的に制御されるウシ胎盤細胞内の遺伝子ネットワークが初めて明らかとなり、ウシ胎盤における胎盤機能調節因子としてのAMの作用機序の一端が明らかとなった。以上より、当該年度の研究計画に沿い、概ね順調に研究が進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度からの継続として、ウシの妊娠経過に伴うAMの末梢血中分泌動態をさらに試験頭数を増やして測定することで、データをより普遍的なものにする。また、ウシ胎盤を構成する、栄養膜細胞-子宮内膜細胞-血管内皮細胞間の相互作用におけるAMの生理的役割を検証するため、遺伝子導入によりAM遺伝子を過剰発現したウシ栄養外胚葉細胞を、子宮内膜上皮細胞および血管内皮細胞と共培養し、マイクロアレイおよびリアルタイムPCRを用いてそれぞれの細胞の遺伝子発現動態を解析する。本実験により、胎仔側組織である栄養膜細胞で特異的に産生されるAMと、母体側組織である子宮内膜細胞および血管を構成する血管内皮細胞との間で、胎盤機能や血管機能調節に関する細胞間相互作用の分子レベルでの詳細な知見が示されることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は、妊娠に伴う末梢血中AM分泌動態を決定するための採血に供試可能な妊娠牛の頭数が当初予定よりも少なく、市販のELISAキットや生化学実験用消耗品の購入数が減少したため、血中AM濃度測定に充当するために計上した「物品費」が一部未使用となったこと、および、現在投稿準備中の論文のための「英文校閲料」および「論文投稿料」が未使用となったことに因るものである。 次年度は、今年度からの継続として妊娠牛から採血を行い末梢血中のAM分泌動態を解析するため、AMのELISAキットや採血管などの生化学実験用の試薬や消耗品を計上するとともに、in vitro実験系を用いて栄養膜-子宮内膜-血管内皮細胞間の相互作用におけるAMの生理的役割を検証するため、遺伝子発現解析や細胞培養などの各分析に用いる試薬類や消耗品に経費を使用する。また、成果を公表するための「旅費」、論文投稿のための「英文校閲料」および「論文投稿料」を計上する。
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