本研究は、血管作動性物質の一つであるアドレノメデュリン(AM)に着目し、そのウシ妊娠中の胎盤機能の局所調節機構における生理的役割を明らかにすることを目的とする。本年度は、ウシ胎盤においてAM存在下での栄養膜細胞と子宮内膜上皮細胞の相互作用を、セルカルチャーインサートを用いた非接触共培養系にAM添加を行うことで検証した。AM存在下での共培養による子宮内膜上皮細胞の増殖および遺伝子発現におよぼす効果を検証するため、96ウェルまたは12ウェルセルカルチャーインサート内にウシ栄養膜細胞株(BT-1)を、マルチウェルプレートにウシ子宮内膜上皮細胞をそれぞれ播種し、1)無処置区、2) AM添加区(10nM)、3) AM(10nM)+AMアンタゴニスト(100nM)添加区を設定した。対照区は、BT-1細胞を播種しないセルカルチャーインサートのみを設置したマルチウェルプレートに子宮内膜上皮細胞を播種して、同様の試薬添加を行った。試薬添加72時間後に、WST-8を用いた発色法により子宮内膜上皮細胞の細胞増殖アッセイを行った。また、子宮内膜上皮細胞を回収してtotal RNAを抽出し、リアルタイムPCRにより、アポトーシス関連因子(BAX、BCL2、BAK1)、線溶系関連因子(SERPINE1、SERPINE2、SERPINF2、PLAUR、TIMP)および細胞増殖因子(bFGF、VEGF、MIF)の遺伝子発現解析を行った。その結果、共培養のAM添加区は他の共培養実験区よりも子宮内膜上皮細胞の細胞数および細胞増殖因子(VEGF、MIF)遺伝子発現が増加する傾向が見られたが、これらは子宮細胞単独培養のAM添加区との間で有意な差は見られなかった。したがって、本実験系ではAMによる子宮細胞増殖効果が示唆されたが、栄養膜細胞と子宮内膜上皮細胞の明確な相互作用を明らかにするには至らなかった。
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