研究課題/領域番号 |
25850190
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
河原 岳志 信州大学, 農学研究科, 助教 (30345764)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 乳酸菌 / 皮膚角化細胞 / TARC / アトピー性皮膚炎 / TLR2 |
研究概要 |
本年度は、ヒト角化細胞株HaCaTを用い、Lactobacillus属乳酸菌刺激条件下において皮膚角化細胞のケモカイン誘導が抑制されるかについて基礎的な知見を得た。先にマスト細胞でのTLR2を介したシグナル抑制作用が確認されているLactobacillus reuteri JCM1112株などを候補株とし、70℃で30分間の加熱処理により死菌体を調製した。HaCaT細胞をこれらの加熱死菌体により24時間処理し、その後Sumiyoshiらの方法(J. Dermatol. Sci., 2003)に従いTNF-αとIFN-γの共刺激により胸腺および活性化制御ケモカイン(TARC: Thymus and activation-regulated chemokine)の誘導を行ったところ、菌体未処理の条件と比較して有意な発現抑制が観察された。またこの作用に関してTNF-αとIFN-γによる誘導シグナルのどちらに乳酸菌体が作用しているか検討を行ったところ、TNF-αによる誘導のみに有意な抑制作用を発揮し、IFN-γによる誘導には抑制を示さないことが明らかとなった。 さらにこの抑制作用におけるTLR2の関与について明らかにするため、TLR2を標的としたsiRNA導入によりmRNAおよび細胞表面におけるタンパク質レベルでTLR2の発現が抑制されたHaCaT細胞を調製し、先ほどと同様の加熱死菌体刺激条件下においてTARCの誘導を行ったところ、未導入条件下でみられていたTARCの発現抑制作用が消失することが明らかとなった。以上の結果から、本研究で使用したLactobacillus属乳酸菌株はTLR2を介して皮膚角化細胞に抑制状態を誘導し、TNF-α刺激によって誘導されるTARCの発現を抑制することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標として、皮膚角化細胞にLactobacillus属乳酸菌を直接作用させ、I型アレルギーにおいて重要な働きを担うケモカインであるTARCの産生に対し抑制作用が見られるかを明らかにすることを掲げていた。これまでマスト細胞など他の細胞で確認されている作用から予想したとおり、乳酸菌株刺激後には細胞に抑制状態が誘導されており、その作用はTLR2シグナル経路とは異なるTNF-αによるTARCの発現誘導にも有効に作用した。詳しい作用機序については平成26年度の解析を待たねばならないが、これまでTLR4で報告されているクロストレランスに似た現象が働いていることを示唆する結果である。 TARCはIgE抗体と並んでアトピー性皮膚炎の皮膚症状と相関性の高い指標として認識されてきており、これを抑制できることは皮膚への免疫細胞の集積と活性化を防ぎ、皮膚角化細胞の自己修復機能を有効に働かせることでアレルギー症状を緩和させる可能性を示唆するものである。このことから本研究のコンセプトであるLactobacillus属乳酸菌による皮膚角化細胞株を介したアトピー性皮膚炎改善効果の検証に向けて、次年度以降の計画を進めていく上での学術的基礎が築かれたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、HaCaT細胞におけるLactobacillus属乳酸菌によるTARC発現抑制作用について、関与が示唆されるTLR2シグナル伝達分子ならびにTNF-αシグナル伝達分子に着目し、それらの働きからピックアップした分子について順次活性化または不活性化状態を解析することで検討を進めていく。また乳酸菌体だけでなく菌体破砕抽出物での検討を予定しており、最終年度に予定している動物を用いた塗布試験に向け基礎的知見を得ることが目標となる。 平成27年度は、生体レベルでの皮膚炎抑制効果を検証するため、アトピー性モデル動物であるNC/Nga系マウスを用い、皮膚炎症進行下における乳酸菌塗布による改善効果を検討する。塗布する乳酸菌の状態については平成26年度の結果と皮膚浸透性などを考慮しながら最終的な決定を行う。その際に使用する基剤などを予備検討により決定したのち、菌体または菌体抽出物の単独塗布試験区と同一乳酸菌株の経口投与を組み合わせた試験区を設定し、両者の組み合わせによる効果を評価する試験を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に予定していた計画のうち、菌体破砕抽出物を用いた検討を繰り越したため次年度使用額が生じた。その分、次年度における検討で重要な知見となる標的とするサイトカインに関する解析を行い、平成26年度に予定している研究がスムーズに遂行できるよう検討を進めた。 平成26年度では予定している実験計画に加え、繰り越した予算により菌体破砕抽出物の調製とそれを用いた評価を合わせて行う。菌体破砕抽出物による評価は平成27年度実施予定の塗布試験に深く関わってくるため、平成26年度末の時点で計画されている評価は全て完了する予定である。
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