研究課題/領域番号 |
25850198
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
白藤 梨可 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 助教 (00549909)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マダニ / 栄養シグナル伝達 / RNA干渉法 / 飢餓 / 吸血 |
研究概要 |
1.栄養シグナル伝達経路に関与する新規マダニ遺伝子の単離:フタトゲチマダニESTデータベースを用い、リボソームタンパクS6相同遺伝子の単離を試み、cDNA塩基配列を部分的に得た。また、同様の手法で、ヒストン脱アセチル化酵素Sir2(silent information regulator 2)の相同遺伝子単離を実施し、全長cDNAを得た。 2.オートファジー関連遺伝子発現解析:単離済みのオートファジー関連遺伝子(HlATG3、HlATG4、HlATG8、HlATG12)について、卵巣および卵における遺伝子発現解析を実施した。未吸血、吸血2日目・4日目、飽血、産卵前、産卵期の雌ダニ卵巣ならびに、産卵開始日より経日的に回収した卵についてtotal RNAを抽出し、リアルタイムPCR法を実施した。その結果、卵巣におけるHlATG遺伝子発現は飽血後に上昇し、産卵期には最も高いレベルに達することが判明した。一方、卵においては、発育の進行に伴いHlATG遺伝子発現レベルが低下した。これらのことから、HlATG遺伝子は母性mRNAである可能性が示唆され、卵形成あるいは胚発生時において重要な役割を果たすことが推測された。これらの研究成果はVeterinary Parasitology誌に受理・掲載された。 3.AMPキナーゼ(AMPK)の特性解明:AMPKについて、遺伝子発現解析ならびにRNAiを実施した。雌ダニの唾液腺、中腸、脂肪体においては、吸血開始後にAMPK 遺伝子発現レベルが上昇し、飽血後に低下した。臓器別の比較では、卵巣においてAMPK 遺伝子発現レベルが最も高く、未吸血および吸血に関わらず高い発現レベルを示した。一方、雌成ダニに対しRNAiを実施したところ、RNAi群のマダニは対照群と同様に吸血、産卵を行った。現在、再実験を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、フタトゲチマダニESTデータベースを用い、進化的に保存されている栄養シグナル伝達経路に関与する遺伝子の探索を重点的に行った。その結果、S6ならびにSir2相同遺伝子の単離に成功し、Sir2については全長を得た。Sir2遺伝子はマダニ(Ixodes scapularis)ゲノムデータベース上に存在するが、その特性解明は行われていない。マダニは飢餓と飽血(満腹状態)を繰り返す生物であり、Sir2遺伝子はカロリー制限時の寿命延長に関与する遺伝子として知られていることから、本遺伝子に着目しマダニにおけるSir2遺伝子の特性解明を推進することは、マダニ特有の栄養シグナル伝達経路を解明するための手がかりになると期待される。また、すでに単離していたオートファジー関連遺伝子群について、フタトゲチマダニにおける詳細な遺伝子発現解析を実施し、卵巣における発現パターンがHlATG6と同様であることが明らかになったとともに、マダニのオートファジー関連遺伝子の機能が臓器によって異なることが推測された。さらに、AMPK相同遺伝子について遺伝子発現解析、RNAiによる機能解析を実施し、新たな知見を得た。これらの成果は、来年度以降の研究推進に繋がる重要な知見であり、今年度はおおむね順調に進展したと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度得られた研究成果を基に以下の内容について実施し、加えて、平成26年度の計画に沿った研究を遂行する。 1.S6相同遺伝子について、RACE法により全塩基配列の解読を試みる。 2.Sir2相同遺伝子の特性解明を次年度以降も継続し、マダニにおける本遺伝子の機能解明を実施する予定である。 3.遺伝子発現解析により、AMPK遺伝子が母性mRNAの一つであることが推測されたことから、本遺伝子が胚発生時における栄養シグナル伝達に関与するか否かを今後検証する。加えて、未吸血マダニにおけるRNAiを実施し、未吸血時におけるAMPK遺伝子の機能解析を推進する。
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