犬の悪性黒色腫は、高い転移率と低い従来の治療法への反応性から難治性疾患の一つとされている。これに対し我々は本研究において、腫瘍による免疫寛容誘導経路の阻害と、腫瘍抗原ペプチドによる刺激を組み合わせた新たな免疫療法の検討を行った。 まず、犬由来培養細胞株DH82に着目し、同細胞の有する抗原提示能を利用するために、放射線、もしくは化学的に不活化させる条件を決定した。この不活化したDH82と腫瘍抗原ペプチドとを混合し、これらをリンパ球活性化時に添加したが、どの条件においてもリンパ球の増殖活性、ならびに抗腫瘍活性を有意に向上させることはできなかった。 一方、これまでのin vitroでの結果に基づき、腫瘍抗原ペプチドを用いて活性化させたリンパ球の抗腫瘍活性について、ヌードマウスを用いたin vivoでの検討を行った。犬悪性黒色腫細胞株としてはMiを、また免疫不全マウスとしてBalb/c nu/nuマウス、腫瘍抗原ペプチドとしてTyrosinaseをそれぞれ選択した。この結果、腫瘍細胞とリンパ球を同時にマウスに接種した場合には、活性化リンパ球による明らかな抗腫瘍活性を認めたが、腫瘍抗原ペプチド添加の有無における有意な差異は認められなかった。また、1cmほどに成長した腫瘍に対し、同腫瘍内に直接リンパ球を接種した場合には、リンパ球接種、またペプチド添加のどちらにおいても有意な抗腫瘍効果は認められなかった。これらの結果はin vitroの結果と一致しないものであり、活性化リンパ球による抗腫瘍効果を示してはいるものの、ペプチド刺激単独では限界があることを強く示唆するものと考えられた。このbreakthroughとして、Gpnmbなどの免疫寛容誘導経路に対するより効果的な阻害の方法を新たに検討する必要がある。今後は、臨床現場における応用を目的として、本方法に対しさらなる改善を行っていくものである。
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