本研究目的は犬の自然発症した脊髄損傷症例に対し、嗅粘膜鞘細胞ならびに鼻粘膜由来幹細胞同時移植による脊髄機能回復に関する有用性を検討することであり、昨年度に引き続き犬の嗅粘膜由来嗅神経鞘細胞の抽出および感染のコントロールの検討(実験1)、嗅粘膜由来細胞に代わるDFAT移植による歩行機能改善のメカニズムの解明(実験2)、そして適応症例を抽出するために自然発症した犬の椎間板ヘルニアの症例における予後不良因子の検討(実験3)を行った。実験1に関しては昨年度実施した方法にゲンタマイシン加生理食塩水にて鼻腔内を洗浄し、経鼻腔内視鏡により嗅粘膜を採取し、従来通りの初代培養を実施した。その結果、犬10頭から採取した嗅粘膜から抽出した嗅粘膜鞘細胞ならびに嗅粘膜由来幹細胞の初代培養において8頭で感染が認められなかった。実験2では昨年度、脊髄損傷モデルマウスへマウス由来DFATを移植したところ移植をしていないマウスと比較し、移植群では神経機能が有意に改善したことが判明した。そこでDFAT移植による機能再生のメカニズムを解明するため、病理組織学的な検索を行った。移植した群においてDFATが髄鞘マーカーを発現していることが判明し、髄鞘再生に関与していることが示唆された。また、移植群では脊髄損傷後に形成される空胞やグリア瘢痕の大きさが、コントロール群と比較すると有意に縮小していることがわかった。実験3では予後不良因子を呈する椎間板ヘルニア症例において脳脊髄液検査が、予後に関連するかいなか検討した。脳脊髄液の一般性状、細胞数、細胞種類、キサントクロミ―の有無、ミエリンベーシック蛋白(MBP)とニューロン特異的エステラーゼ(NSE)の測定を行った。その結果、MRI画像や重症度で予後不良因子をもつ群において出血を示唆するキサントクロミ―が全ての症例で認められ、さらにコントロール群と比較しMBP、NSEの値が有意に高値を示した。
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