研究課題/領域番号 |
25850214
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
根尾 櫻子 麻布大学, 獣医学部, 助教 (50532107)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 犬 / 肝臓 / 三次元化 / 薬物代謝 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、イヌiPS細胞や体性幹細胞を用いて、生体外で三次元肝組織を作製し、新規薬物代謝及び毒性試験の可能なスクリーニングチップとして確立することである。iPSや体性幹細胞をソースとすることで、生体外では長期生存が不可能である肝細胞培養系の問題点を克服し、培養肝細胞・組織の安定供給を図る。このような薬物スクリーニングチップは、創薬研究での動物実験代替法となり、また個人差のある肝代謝を生体外で再現することで、重篤な薬物毒性の危険性を排除できる利点がある。本研究は獣医学のみならず、医学、創薬の推進を大きく促すはずである。 1.人工肝組織の構築に最適なソース (iPS細胞・体性幹細胞)および培養基材の決定:平成25年度は、犬の体性幹細胞を含む骨髄細胞をソースとして、培養機材には新たな試みとして本邦で開発された最先端技術である、「温度応答培養皿」を用い、骨髄細胞から二次元的に誘導した肝細胞のシートを三次元組織化することに着手した。 2.三次元人工肝作製とそれに最適な培養基材およびプロトコールの検討:まず、二次元の段階で分化させた肝様細胞に関して、形態観察および定性的、定量的PCRと免疫染色を用い、成熟肝細胞のマーカー(Albumin, HGF, CK18)、薬物代謝(CYP1A1)、糖新生マーカー(PEPCK)、および肝前駆細胞マーカー(CD90, CD40)のmRNA発現を検討した。また、定量的PCRにて、最も肝特異的普遍的マーカーであるアルブミンの産生を比較検討した。平成26年度は三次元化の確立と、「肝特異的分子RNAとタンパク質の発現、および肝機能の発現を多角的に解析する」という計画を遂行し始めたが産休のため、同計画は次年度(平成27年度)の計画とした。 産前産後休暇ならびに育児休暇取得のための補助事業期間の変更(平成25年度~27年度 ⇒ 平成25年度~28年度)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は産休明け初年度で、あまり全力で計画遂行を行えなかったため、当初の計画よりもやや遅れている。27年度は、26年から持ち越した計画である、「骨髄細胞の温度応答性培養皿での培養」の改良および「人工肝組織の性状検討」を行い、生体肝細胞により類似した肝様細胞へ分化させるための最適ソースと培養基材の決定ならびに性状検討を行う計画で研究に着手した。また、平成25、26年度に骨髄由来肝様細胞の長期培養を行う中で観察された、小型肝細胞様で、Ki67を発現する増殖活性の高い細胞の検討を行う計画を練り、小型肝細胞マーカーであるCD44発現検討を免疫染色にて検討することから始める計画を立てた。 しかし、まず温度応答性培養で作成した肝細胞シートの積層化と、免疫染色でのタンパク検出のために組織化して評価する方法を検討するために時間を費やした。また、培養条件によっては小型肝細胞様細胞が見られないことが分かったため、確実に小型肝細胞様細胞が出現する条件の検討に時間をかけた。結果として、おそらく培地に添加する因子の一つである胎盤抽出液のロット差が原因であると考えられ、添加因子の再検討も余儀なくされた。以上の経過から、結果的に計画がやや遅れた状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに明らかとなった問題点を解決し、研究を遂行するための推進方策 1.三次元化の問題:現在までの研究過程で、「温度応答性培養皿」は、犬の骨髄由来肝様細胞の分化と増殖を効率よく進めるには最適な基材とならないと推測された。従って、対策としては、最近富士フイルムが開発した「セルザイク」に計画を変更して三次元化確立を行う計画である。「セルザイク」は、「リコンビナントペプチド(RCP)」のマイクロサイズのペタロイド状微細片と細胞を組み合わせて形成したモザイク状の三次元細胞構造体である。リコンビナントペプチドを用いて内部に空間が形成され、その空間を通じて栄養・酸素の供給、老廃物の排泄が可能となることから、血管内皮細胞との共培養を行い、肝組織に近い環境が作れる可能性がある。 2.培地に添加する因子の検討:今までの研究過程で、培地に添加する因子の一つである胎盤抽出液におけるロット差によって骨髄細胞から肝様細胞への分化増殖が影響を受けることが明らかとなった。このことから、主に胎盤抽出液に含まれる因子に関して再検討を行う。 3.肝特異的分子RNAとタンパク質の発現、および肝機能(CYP450, 尿素、糖質、脂質代謝能)の多角的解析:セルザイクによって「三次元化人工肝」の作成に成功した際には、肝細胞特異的マーカーであるアルブミンを定量的PCRおよび免疫染色にて確認し、肝細胞特異的マーカー(AFP、アルブミン、HNF4、AGP、α2-microglobulin, ヘプシジンなど)と細胞間相互作用に関わる分子(インテグリンα4, デコリンなど)の発現を、定量的PCRおよび免疫染色にて確認する。また、細胞の機能発現は、糖代謝をPAS染色で、脂質代謝をLDL取り込み能で、また、薬物代謝能をCYP450測定で、さらに解毒作用を尿素産生能で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は育児休暇後、研究開始1年目であったことから、全力で研究を遂行することができなかったため、平成28年度に繰り越しを行い、有効に利用しようとしたことが、繰り越し金額が多い理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
三次元肝様組織(セルザイク)作製のためのデバイス購入および肝特異的分子RNAとタンパク質の発現、および肝機能(CYP450, 尿素、糖質、脂質代謝能)の多角的解析に使用する。 肝細胞特異的マーカーであるアルブミンを定量的PCRおよび免疫染色にて確認し、肝細胞特異的マーカー(AFP、アルブミン、HNF4、AGP、α2-microglobulin, ヘプシジンなど)と細胞間相互作用に関わる分子(インテグリンα4, デコリンなど)の発現を、定量的PCRおよび免疫染色にて確認する。また、細胞の機能発現は、糖代謝をPAS染色で、脂質代謝をLDL取り込み能で、また、薬物代謝能をCYP450測定で、さらに解毒作用を尿素産生能で検討する。
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