本研究の目的は、イヌiPS細胞や体性幹細胞を用いて、生体外で三次元肝組織を作製し、新規薬物代謝及び毒性試験の可能なスクリーニングチップとして確立することである。iPSや体性幹細胞をソースとすることで、生体外では長期生存が不可能である肝細胞培養系の問題点を克服し、培養肝細胞・組織の安定供給を図る。このような薬物スクリーニングチップは、創薬研究での動物実験代替法となり、また個人差のある肝代謝を生体外で再現することで、重篤な薬物毒性の危険性を排除できる利点がある。本研究は獣医学のみならず、医学、創薬の推進を大きく促すはずである。 この目的を達成するために、本研究では、犬の体性幹細胞を含む骨髄細胞をソースとして、培養機材には新たな試みとして本邦で開発された最先端技術である、「温度応答培養皿」を用い、骨髄細胞から二次元的に誘導した肝細胞のシートを三次元組織化することに着手した。検討はまず、二次元培養した細胞に関して行い。これらの細胞は、定性的PCRで成熟肝細胞マーカー(Albumin、HGF、CK18)、薬物代謝酵素(CYP1A1)、糖新生マーカー(PEPCK)および肝前駆細胞マーカー(CD90、CD44)のmRNAを発現し、Albuminの定量的PCRでは、骨髄細胞と比較して発現量が高くなることを確認した。また、2か月を超える長期培養においても発現が維持されることが分かり、骨髄由来肝様細胞は、二次元で培養した状態でも肝前駆および成熟細胞の性質を長期間維持できることが確認された。 三次元化の培養に関しては、現在までの研究過程では、「温度応答性培養皿」は、犬の骨髄由来肝様細胞の分化と増殖を効率よく進めるには最適な器材とならないと推測され、より、肝細胞に類似した性質を持つ細胞を作製するためには、三次元化のためのさらなる検討が必要であると考えられた。
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