本研究は、ネコのにおいを介した嗅覚コミュニケーションの仕組みを行動レベルから分子レベルまで生化学、分析化学、行動学の解析手法を用いて学際的に検証し、ネコの縄張り行動の基本原理の理解を目指した。そして得られた知見を基に幼稚園や公園、住宅街で問題になっている放し飼いネコや野良ネコの糞尿被害を防止する新技術の開発を試みている。最終年度は、ネコ尿抽出物に対する糞尿被害防止効果を検証した。ネコの尿から有機溶媒を使い脂溶性化合物を抽出し、さらにそこから揮発性化合物を分離して、それをガラスプレートに塗布して、野外に一晩提示した。その近辺を赤外線ビデオカメラで撮影し、野良ネコが現れるか、現れた場合、ガラスプレート近辺でどのような行動を提示するか、フレーメンなど特異なフェロモン反応を提示するか、糞や尿のマーキング効果が阻止できるか調べた。その結果、プレート付近に出没した野良ネコは、あたりのにおいを嗅ぎ始めて、最終的にプレートにたどり着き、時間をかけて丹念なにおい嗅ぎやフレーメン反応を提示したが、その後は、尿マーキングや糞の排泄をすることなく、その場を立ち去ることが分かった。以上の結果、ネコの尿にはネコ尿や個体差を特徴付ける化合物が含まれており、それが周囲に放出されること、別なネコは仲間のにおいの存在を認識すると、興味を持ち、においの調査を行うが、イヌのようにオーバーマーキングせずに立ち去ることが明らかになった。
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