研究課題/領域番号 |
25850219
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新井 大祐 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (20624951)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / ヒストン修飾 / クロマチン / Nodal / 胚性幹細胞 |
研究概要 |
これまでに、マウスNodal遺伝子の転写開始点上流約3kbにわたる領域が胚性幹細胞(mESC)から分化・発生が進むにつれDNAメチル化が亢進していく組織特異的メチル化領域(T-DMR)であることを見出し、Epigenetic regulatory element(ERE)と命名した。さらにEREはmESCにおいて下流遺伝子の発現を誘導する制御領域であることや、mESCから胚様体に分化する過程でクロマチンが高度に凝縮していくことを示してきた。そこで本年度はEREについてさらなる解析を進めた。EREの中でもmESCでクロマチンが特に弛緩している領域はヒトやその他の哺乳類でも保存されており、Oct3/4結合モチーフが存在した。さらにOct3/4遺伝子のノックダウンによりEREの転写誘導活性が大きく低下することを確かめた。よってEREはOct3/4の制御下にあることが判明した。一方、EREは胚様体への分化に伴いEzh2によるH3K27トリメチル化を受けることを見出した。つまりEREはDNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン凝縮によるエピジェネティック制御の標的であるとわかった。In vivoでの解析として、レーザーダイセクション法により8.5日胚の神経板、右側側板中胚葉、左側側板中胚葉を採集しDNAメチル化状態を比較したところ、EREの上流に神経板で高メチル、両側の側板中胚葉に共通して低メチルとなる箇所を見出し、同じ初期胚でも組織間でメチル化状態が異なることを確認した。EREに加えて、エピブラストや左側側板中胚葉でNodalを誘導するAsymmetric enhancer(ASE)についても解析を行ったところ、DNAは発生を通じてほぼ非メチルであり、クロマチンはmESC・胚様体のいずれにおいても凝縮状態にあった。しかしmESCをエピブラスト幹細胞(mEpiSC)へと分化させたところ、EREのクロマチンが凝縮するのに対してASEのクロマチンは顕著に弛緩していったことから、エピジェネティック機構による制御領域のバトンタッチが起こったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度に計画されていたin vitro / in vivoでのDNAメチル化解析では一定の成果を得ることができた。加えて、当初は次年度の計画に含まれていたEREの転写因子、エピジェネティック修飾因子を同定することにも成功し、分子制御機構を描き出すことができた。よって研究は極めて順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までにEREならびに既知の制御領域のDNAメチル化やヒストン修飾状態の変化を明らかにすることができた。今後はこれらの修飾がNodal遺伝子制御に直接働いていることを実証していく。主にEREの制御に関わると予想されるDNAメチル化とH3K27トリメチル化に着目し、阻害剤処理による修飾酵素の機能阻害実験を行う。Nodal遺伝子の発現やEREを含む制御領域のクロマチン凝縮状態を解析し、Nodal遺伝子のエピジェネティック制御を担う責任因子を決定する。 EREがヒトにも保存されていた点は重要である。マウスと同様に、ヒトNODAL遺伝子も成体組織では抑制されているが、ある種のがん細胞やがん幹細胞では発現し、がんの悪性化にも関与する可能性があるという報告が近年なされている。そこでヒト正常細胞およびがん細胞を対象とし、EREおよびその他の制御領域について、エピジェネティック状態の解析や機能阻害実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度予算はほぼ計画通りに使用されたが、小額の余剰が生じ、本年度中に特段必要な消耗品もなかったため、次年度繰り越しとした。 次年度の消耗品費に組み入れて使用する。
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