研究課題/領域番号 |
25850232
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
野中 寛 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (90422881)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | セルラーゼ / 酵素糖化 / リグノセルロース / セルロース / リグニン / 吸着 / 蒸気爆砕 |
研究概要 |
リグノセルロースの酵素糖化において,基質中リグニンに対するセルラーゼの非生産的吸着が課題のひとつとされている。蒸気爆砕はリグノセルロースの酵素糖化前処理として採用されがちだが,主としてヘミセルロースが分解,溶出するため,基質の主成分はセルロースとリグニンになり,リグニン含有率は増大する。すなわち他の前処理を適用したときより,酵素の非生産的吸着の影響をより深刻に受ける可能性がある。セルロースの酵素加水分解に伴い,リグニン含有率が上昇し,基質表面のリグニンの露出も増すと推定されるが,糖化進行中におけるセルラーゼ-リグニンの相互作用の経時変化については明らかではない。そこで本年度は,蒸気爆砕ユーカリを基質としたきの酵素糖化過程について,基質サイズ,基質へのセルラーゼ吸着量などの経時データを取得し,セルラーゼーリグニン間の相互作用を総合的に評価することを目指した。湿潤爆砕ユーカリ試料約0.1 gに対して,1.5 FPU相当のセルラーゼを与えたとき,すなわち6時間でほぼ完全に糖化が完了する事例を主要モデルとして解析を進めた。その結果,酵素糖化初期において,吸着セルラーゼ量は急速に増加し,10分~1時間で最大値に達したのち,糖化進行とともに吸着量が減少することを明らかにした。横軸を残渣中の糖質重量,縦軸を吸着セルラーゼとしたプロットを行い,糖質重量ゼロへと外挿する新手法により,爆砕ユーカリリグニンへのセルラーゼ吸着量を約18 mg/gと推定することに成功した。また吸着量の経時変化より,セルラーゼは投入初期に,セルロース,リグニン双方に飽和量吸着し,糖化進行(=セルロース分解)とともに,セルロース上に吸着していたセルラーゼは溶液中にリリースされることが推定された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,前処理バイオマスとして,蒸気爆砕ユーカリについて研究を行った。酵素糖化に伴う残渣重量,組成,粒径,表面積,吸着セルラーゼ量をモニターし,蒸気爆砕ユーカリ基質中のセルロース,リグニンのセルラーゼ吸着容量や,吸着挙動の経時変化の推定を行い,当初想定していた以上の成果を得た。一方で,H25年度研究計画にあげた,酵素糖化条件下,緩衝溶液に溶出する成分の定性,定量に関して,HPLC分析を行ったものの,完全な定性・定量にまでは至らなかった。こちらに関しては,H26年度早々に実施予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
リグノセルロースの酵素糖化プロセスにおいて,基質や残渣に吸着する酵素量の把握は不可欠である。これまで,糖化液中のセルラーゼ量をブラッドフォード法により比色定量し,差し引きにより吸着量を算出してきた。しかし比色法は,夾雑物の影響を受けやすく,再現性に乏しい,タンパク質によって発色率が異なる,などの問題点を有する。平成25年度末に,セルラーゼが吸着した糖化残渣の元素分析を行った結果,経時変化傾向はブラッドフォード法と同様であったが,吸着量の絶対値は2~3倍程度の吸着量と計算された。すなわち世界標準的に用いられている比色定量法が,適用可能かについて再検証する必要がでてきている。本年度前期は,複数のセルラーゼについて,配列解析,元素分析,紫外吸収,複数の比色法,活性測定を併用して,定量法の再検証を行い,確固たるメソッドを確立する。その後,引き続き,ソルガムやユーカリなど,酵素糖化の有力な基質について,セルラーゼ-基質間の相互作用の継時変化解析を進める。
|