セルロース系バイオマスの酵素糖化において,糖化酵素セルラーゼのコスト低減が大きな課題である。糖化残渣に含まれるリグニンはセルラーゼを非生産的に吸着することが知られ,低酵素使用量の際に糖化効率が頭打ちとなる理由と考えられている。この現象の解明のため,著者も含め多くの研究者が試料より何らかの方法でリグニンを単離し,セルラーゼとの吸着実験を行ってきた。これに対し本研究では,単離リグニンの水中での状態と,実バイオマスの酵素糖化進行中におけるリグニンとは状態が異なることに着目し,実バイオマスを用いて包括的に「バイオマスの酵素糖化抵抗性に対するリグニンの寄与」を理解することを目的とした。 実験には主として蒸気爆砕ユーカリを用いた。10分~16時間酵素糖化を行い,基質へのセルラーゼ吸着量は初期で最大となり,セルロースに吸着したセルラーゼは糖化とともに遊離すると推測された。横軸に残渣中の多糖重量,縦軸に吸着セルラーゼ重量をとり,近似曲線を外挿する新規考案手法により,51 FPU/gのセルラーゼ添加系では,セルラーゼの約3割がリグニンに吸着したと推定された。一方,低酵素使用量の際,セルラーゼ全量がリグニンに吸着して糖化を阻害するわけではなく,吸着平衡に従い液中にもセルラーゼが存在すること,基質中のリグニン含有率の増大につれ,時々刻々吸着等温線が変化し,飽和吸着量が増大していくことを明らかにした。樹種,前処理を変えた実験では,アルカリ蒸解前処理を受けた基質は,酵素糖化時のセルラーゼ吸着量が大きくなることを見出した。本研究を行うにあたり,夾雑物の影響を受けやすく,セルラーゼに対する発色,安定性に乏しい比色法に代わり,糖化残渣の窒素量のモニタリングにより,糖化過程におけるセルラーゼ吸着挙動を追跡する手法の開発も達成した。
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