研究課題/領域番号 |
25850233
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
今西 亜友美(牧野亜友美) 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (70447887)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラオス / 二期作 / 天水田 / 灌漑 / 食用雑草 / 散布体バンク / 埋土種子 / 撒きだし実験 |
研究実績の概要 |
ラオス南部パクセ近郊のK村を調査対象地として設定した。K村の水田面積は約170haで,そのうちの約20%(35ha)が灌漑可能である。なお,K村の灌漑は2003年に始まった。前年度に行ったK村における地上植生調査の結果,天水田(雨季のみ作付け)と灌漑田(雨季は天水を利用し,乾季は灌漑施設を利用して作付け)の間で草本植物の種数や多様度指数には有意な差はないが,種組成には違いがあり,天水田でアブノメ属sp.やデンジソウ属spp.などの湿地性植物が多いことが明らかになっている。本年度は天水田と灌漑田で散布体バンク(土壌中の種子・胞子・栄養繁殖子の集団)の種組成に違いがあるかを明らかにするため,K村で水田土壌を採取し,現地の大学の圃場にて撒きだし実験を行った。2015年2月にK村の天水田と灌漑田それぞれ10筆から表層5 cmまでの土壌を採取した。1筆につき8 cm x 15 cmの大きさのプラスチック容器を4つ用意し,採取した土壌を3 cm厚で撒きだした。撒きだし後1か月は水位を3 cmに保ち,1か月後に発芽したすべての植物の種類と本数を記録した。その結果,天水田と灌漑田の土壌から発芽した植物の種組成に違いがみられ,ホシクサ属spp.やミズマツバなどの一部の湿地性植物は,灌漑田より天水田の土壌からの発芽個体数が有意に多かった。また,食用雑草であるコナギやデンジソウ属spp.は天水田の土壌からのみ発芽した。これらのことから,天水田と灌漑田の間で散布体バンクの種組成に差があり,灌漑を続けることにより,地上植生だけでなく,散布体バンクにおいても湿地性植物の一部や食用雑草の個体数が減少する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,天水田と灌漑田の土壌の撒きだし実験を予定通り実施し,散布体バンクにおける草本植物の種組成の違いを明らかにすることができた。また,平成25年度に得た結果のうち,天水田と灌漑田における地上植生の違いや,利用されている食用雑草の種類について,国内学会で発表し,議論した。これまでの成果について学会発表時の議論やラオス・チャンパサック大学の研究協力者との意見交換を踏まえて,投稿論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでの調査結果を用いて,天水田地域における灌漑施設の導入が,草本植物相や雑草食文化に及ぼした影響を,植物相および農民の意識の両面から評価する。また,ラオス政府およびチャンパサック県の地方自治体の食料生産と農村の生物保全に対する方針や施策に関する資料を収集するとともに,農業従事者の食料生産,生物保全や生物資源利用に対する関心や意識についてインタビュー調査を行う。以上の調査結果を用いて,対象地域における持続的な食糧生産と,草本植物の種多様性および雑草食文化の保全の両立に向けた課題や今後の方針を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ラオス政府やチャンパサック県の地方自治体の食料生産と農村の生物保全に対する方針や施策に関する資料の収集について,ラオス・チャンパサック大学の研究協力者と打ち合わせを行った結果,それらの資料のラオス語の翻訳謝金に想定以上の研究費が必要であることが明らかになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
調査のための消耗品費,調査・学会発表旅費,その他の英文校閲費などの費用は,当初の予定通り使用する。調査補助のための謝金については,当初の予定額に,今回生じた次年度使用額を資料の翻訳のための謝金として追加して使用する。
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