本研究の目的は東南アジア天水田地域における乾季作の実施が,水田の草本植物相および食用雑草の利用に及ぼす影響を明らかにすることである。調査対象地は,ラオス南部チャンパサック県内の2つの村とした。前年度までに,各村において村人へ食用雑草についてのヒアリング調査を行った。また,各村において天水田と灌漑田の植生調査および埋土種子調査を行った。今年度は各村の乾季のコメ生産量や化学肥料使用量等のヒアリング結果および統計情報を整理し,前年度までの結果と合わせて,本対象地における持続的な食糧生産と草本植物種多様性および雑草食文化の保全の両立について考察した。 ヒアリングの結果,カオリシソクサ,デンジソウ属sp,コナギを含む9種の食用雑草が記録され,灌漑施設の整備前後での食用雑草の利用については,大部分の村人が変化はないと回答した。植生調査データのTWINSPAN分析の結果,灌漑田の指標種として強害雑草であるヒデリコ,コヒメビエ,ハイキビが選ばれ,灌漑田では化学肥料の使用量が多いため,これらの種の生育が盛んであると考えられた。撒きだし実験の結果,灌漑田の土壌では,食用雑草の種子や胞子が減っている可能性が示唆された。以上のことから,乾季作の実施は地上植生および埋土種子の種組成に影響を及ぼしているが,食用雑草の利用について現状では村人が認識するほどの影響はないことが分かった。 乾季のコメ生産量や化学肥料使用量等のヒアリングの結果,灌漑田では休耕期間がなく高額な化学肥料が必要であるため,乾季作を停止する村もあることが分かり,持続的な食糧生産と草本植物種多様性および雑草食文化の保全の両立のためには,灌漑田における効果的な休耕期間を明らかにする必要があると考えられた。以上の結果をラオ語に翻訳し,ラオス,チャンパサック大学の共同研究者から調査対象村へ配布してもらうことで,研究成果を現地に還元した。
|