研究課題
若手研究(B)
本課題研究は、Paenibacillus 属細菌由来新規なキチナーゼChiWの複合ドメイン構造による強力なキチン分解の分子機構を明らかにし、糖転移活性を向上させることによって、キチンおよびキチンオリゴ糖の利用拡大に資することを目的としている。本年度は、ChiWの「複合ドメイン構造」と「高いキチン分解活性」の構造機能相関解析に着手した。(1) ChiW触媒反応の解析: ChiWのキチンおよびそのオリゴ糖に対する反応様式を明らかにするため、ChiW全体、触媒ドメインのみ、立体構造不明ドメインのタンパク質試料を調製した。立体構造不明ドメインのみにはキチン分解活性は認められなかったが、ChiW全体および触媒ドメインのみには分解活性が認められ、キチンはランダムに分解され、最終的には2糖にまで分解された。その反応の最適温度、最適pHは、それぞれ50℃、pH 5 付近であった。(2) ChiWのX線結晶構造解析: ChiWがキチンを強力に分解できる立体構造的要因を明らかにするため、タンパク質試料の精製条件と結晶化条件の再検討を行った。結果、ChiW全長の結晶の回折データの分解能を2.6から2.1オングストロームにまで向上することができた。触媒ドメインのみの結晶に関しては、1.93オングストローム分解能の回折データが得られた。(3) ChiW立体構造の動きの解析: キチンとの結合/分解の際に生じる動きを解析するため、円二色性スペクトルデータの取得を試みた。結果、ChiWの立体構造不明ドメインが主にβ-ストランドで構成されていることを明らかにした。次年度は、立体構造不明ドメインの機能解析を進め、立体構造と強力なキチン分解能力との相関解析を行う。また、ChiWの糖転移活性の向上とキチンオリゴ糖の合成研究も進めていく。
2: おおむね順調に進展している
ChiWの「複合ドメイン構造」と「高いキチン分解活性」の構造機能相関解析を進め、下記の成果を得た。(1) ChiW触媒反応の解析: ChiW解析用試料が調製でき、その諸性質を明らかにすることができた。また、結果を論文として掲載することができた。(2) ChiWのX線結晶構造解析: ChiW解析用試料の精製度をこれまでよりも向上させることができ、さらに回折データ質を向上することができた。また、触媒ドメインのみの結晶に関しての結果を論文として掲載することができた。(3) ChiW立体構造の動きの解析: ChiW全長あるいは触媒ドメインのみの円二色性スペクトルデータを取得することができ、ChiWの立体構造解析技術として確立することができた。また、結果は論文として掲載することができた。これらの成果はおおむね当初の研究計画のとおりである。
課題提案書の通り、研究を進めていく。1. ChiWの「複合ドメイン構造」と「高いキチン分解活性」の構造機能相関: 初年度に得られた回折データをもとにChiW全長構造を精密に決定する。また、機能不明ドメインと糖との結合実験を行い、その機能を明らかにする。さらに、立体構造をもとに分子動力学的シミュレーション実験を行い、強力なキチン分解能力を立体構造的に解明する。2. ChiWの糖転移活性の向上とキチンオリゴ糖の合成: 他のキチナーゼの研究で糖転移活性に影響を与えることが知られているアミノ酸残基を他のアミノ酸に変異させた酵素ライブラリーを作製する。そして、糖転移活性が向上したものを選択する。さらに、立体構造や反応様式の解析結果に基づき、基質の親和性、および触媒残基のpKaに関わる残基について、変異体を作製し、同様にスクリーニングを行う。3. キチンオリゴ糖の合成条件の最適化ChiWあるいは糖転移高活性型ChiWを用いて、基質と反応条件を変化させ、オリゴ糖合成条件を最適化する。変異体と糖転移活性の相関を解析することで、活性部位と糖転移活性に関する新たな知見を得る。
若手研究(B)が基金化可能であり、それを利用するため。今回、年度末に論文の掲載が決まり、まだ支払いが確定していないことや、さらに、年度をまたいで論文投稿準備を行っており、そのための予算を基金として確保するため、差額が生じた。差額は論文掲載料および論文投稿費用などに利用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
Acta Crystallogr. F Struct. Biol. Commun.
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http://biotech.fpu.ac.jp/3f.html
http://fpuinfo.fpu.ac.jp/fpu/system/php/faculties_open/showone.php?id=ito-t