工学的に確立された技術であるナノバブルとは、直径1μm以下の極微小気泡のことを指し、気泡が1週間以上水中に存在できる特性を持つ。申請者は、大気や酸素やオゾンを溶解させたナノバブル水を水田に潅漑することによって、通常の潅漑水と比べて湛水土壌中への酸素供給量を増やすことができると考えた。この結果として土壌の還元化が抑えられ、温室効果ガスであるメタン(CH4)の排出量を削減できる可能性がある。本研究では、①ナノバブル水の潅漑によるCH4削減効果を定量的に検証して、②レドックス化学的な解析結果から削減メカニズムを説明するための基礎研究を行った。 本年度は、当初の計画とは異なり、イネを栽培しない湛水土壌におけるナノバブルの到達深度をマイクロセンサーを用いて計測することを試みた。この計画変更は、前年度までのポット栽培実験において、鉄やマンガンの排水への溶脱量の計測によって、CH4生成ポテンシャルの化学量論的評価について一定の成果が得られたためである。また、前年度までのポット実験の成果をまとめた論文を執筆・投稿した。 マイクロセンサーを用いた土壌カラム実験では、灌漑水としての酸素ナノバブル水と対照水(純水)との間で、湛水された灰色低地土における酸化還元電位の鉛直プロファイルを比較した。しかし、本実験の条件では、期待した差(=ナノバブルによって電位が高く維持される)は検出できなかった。 以上のように、本年度の研究では、ナノバブルの土壌への作用メカニズムの解明について、当初の予想通りの結果を得るまでには至らなかった。残された課題は、申請者によって実施される平成28年度・科学研究費助成事業・若手研究(B)「ナノバブル水の潅漑による湛水水田土壌の還元抑制に関する基礎的研究」において、引き続き解明を試みる。
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