研究課題
越冬性の植物は,秋の温度低下とともに「低温馴化」と呼ばれる過程を経て耐凍性を獲得して越冬の準備し,越冬後は気温の上昇を感知して「脱馴化」と呼ばれる過程を経て耐凍性を解除し生長を再開させることが知られている.本研究では,低温馴化と脱馴化の分子メカニズムを明らかにするため,モデル植物であり越冬性のシロイヌナズナを使用して遺伝子とタンパク質それぞれについて網羅的な発現解析を行い,両者を比較した.その結果,低温ストレス応答に関与する遺伝子群は,①低温馴化時に耐凍性を獲得するために発現する遺伝子群(199遺伝子),②低温馴化時に遺伝子を発現させて脱訓化時の準備をし,脱馴化時にタンパク質発現を上昇させる,生長再開の初期に必要な遺伝子群(226遺伝子),③脱馴化時に発現が上昇する遺伝子群(286遺伝子)の3種類に大別された.②の遺伝子群の中には,新しいタンパク質合成に関わる遺伝子や,植物の生長に関わるような遺伝子が含まれていた.これは,越冬後に気温の上昇を感知した植物が,すぐに生長を再開させるようにプログラムされた遺伝子発現,タンパク質発現を制御するメカニズムを持つ可能性を示唆している.越冬性植物では,越冬の準備期間である低温馴化時に遺伝子を発現し,気温の上昇を感知するまで保存して,越冬後にタンパク質発現を行うという特別な転写後制御が機能しており,植物が低温ストレス応答において通常とは異なる発現メカニズムを持っていることを示している.これまでの研究では,網羅的な遺伝子発現解析が主流であり,機能を担うタンパク質の解析結果との比較研究はあまり行われていなかった.本研究の成果は,遺伝子発現解析だけでなく,タンパク質の発現解析や機能解析の必要性を示している.
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Plant Cell Physiol
巻: 56 ページ: 1762-72
10.1093/pcp/pcv096