研究課題/領域番号 |
25860009
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
家田 直弥 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00642026)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | パーオキシナイトライト / 光ケージド / 可視光 / 活性窒素種 / 光誘起電子移動 |
研究概要 |
生体内では一酸化窒素(NO)とスーパーオキシドが反応することによってパーオキシナイトライトと呼ばれる高反応性活性種が発生し、様々な生理活性を示していると考えられている。その発生を人工的に制御することができればパーオキシナイトライトの機能解明や、その作用を利用した新たな化学療法の開発へとつながる。これまで、制御可能なパーオキシナイトライト発生剤として、光によってその発生をコントロールできる化合物が開発されてきた。この化合物は光照射によってNOとスーパーオキシドを発生し、これらが反応してパーオキシナイトライトを形成すると考えられているが、制御光として障害性の高い紫外光を用いる必要があった。本研究では、障害性の低い可視光で制御可能なパーオキシナイトライト発生剤を開発することを目的とした。 可視光によってパーオキシナイトライトを形成するような化合物を設計・合成し、可視光照射に対する反応性を解析した。合成した化合物に可視光照射を行ったところ、化合物の分解は起こるが、パーオキシナイトライトの特徴的な反応である、チロシンのニトロ化を検出することはできなかった。これは、化合物の脂溶性が高く、共溶媒として加えた有機溶媒が反応の高いパーオキシナイトライトと反応しているということが考えられた。そのため現在、水溶性官能基を導入した化合物を設計し、合成を行っている。 また、本研究の過程で合成された別の化合物が、可視光制御型のNO発生剤になりうると考えられた。そこでこの化合物に可視光照射を行ったところ、NOを放出することが確認され、細胞系に適用しても、NOの発生をコントロールできる化合物であることが確認された。さらにex vivoにおいて、NOの生理作用の一つである血管弛緩作用をコントロールできることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに、可視光制御パーオキシナイトライト発生剤として機能すると考えられた化合物を設計・合成し、その機能評価を行ったが、パーオキシナイトライトの特徴的な反応であるチロシンのニトロ化を検出することはできなかった。今後は水溶性の向上などの機能改善を行い、チロシンのニトロ化を起こすことのできる化合物の創製を行っていく。 当初の目的である可視光制御型パーオキシナイトライト発生剤の開発はまだ達成されていないが、開発の過程で合成された別の化合物が可視光で制御可能なNO発生剤になりうることを見出した。この化合物は、in vitroにおいてNO発生の精密に時間制御可能であることが確認され、細胞系においてはNOの発生を高度に空間制御可能であることが確認された。さらに、NOは血管平滑筋の弛緩作用を示すことが知られているが、ex vivoにおいて、この作用を可視光によって正確に制御できることが確認された。 以上の結果から、当初目的としていたパーオキシナイトライトではないが、様々な生理機能に関与していることが知られているNOの発生を、可視光によって高度に制御可能な化合物を開発することに成功した。この化合物はex vivoにおいて可視光で血管弛緩の制御を行えることを示した初の化合物であり、当初の目的とは異なるものの、NOの生理作用を精査するための非常に重要なツールとなりうる化合物の開発に成功したと言え、NO発生剤の開発という観点からは非常に大きな進展であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の計画通り、可視光制御パーオキシナイトライト発生剤の開発を行う。分解物の解析から、可視光照射によって目的の反応機構で分解は起きていることが示唆されているため、合成した化合物のさらなる改良を行う。具体的には、共溶媒として加えている有機溶媒がパーオキシナイトライトと反応してしまっていることが考えられるため、水溶性官能基を導入した化合物の合成を行う。そしてチロシンのニトロ化を起こす化合物を開発し、細胞系に適用し、光によってその活性を制御可能であることを示す。 さらに、本研究の過程で見出された可視光制御型NO発生剤については、今後は哺乳動物を用いたin vivo実験を行い、NOの作用を生きた動物においてもコントロールできるかどうかを調べ、可視光制御型NO発生剤の有用性を示す。さらに、現在コントロールには青色光を用いているが、より透過性の高い赤色光で制御可能な化合物の開発も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度は、合成の比較的容易だったNOドナーの合成を主に行っていたために、予算が余り、次年度使用額が生じた。また生物学的試験も、ex vivoの試験は共同研究先で行ったために予算を使用しなかった。 次年度では、より合成の困難なパーオキシナイトライトのドナーの合成と、さらに多種類のNOドナーの合成を行う予定であり、昨年度よりも多くの予算が必要であると見込まれる。また、より長波長の光源を使用するための装置、フィルターが必要となるため、その購入に予算を用いる。
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