誘起電子移動反応をトリガーとした、新たな可視光制御パーオキシナイトライト発生剤の開発を行った。 まず、パーオキシナイトライト発生部位であるN-ニトロソテトラメチルアミノフェノール構造と光吸収部位であるBODIPY構造を結合させた構造の合成を行った。BODIPY構造を変化させた化合物をいくつか合成したところ、吸光度測定においていずれの化合物も500 nm付近に強い吸収が観測され、これらの化合物が可視光を吸収する化合物であることが分かった。また、この波長の光を照射したところ、化合物の分解が観測された。また、鉄-ジチオカルバメート錯体を用いて嫌気的条件下でパーオキシナイトライト発生の第一段階であるNO放出が起こるかを検討したところ、NO由来のシグナルが観測され、合成した化合物がNOを放出することが示唆された。パーオキシナイトライトの特徴的な反応として、チロシンの3’位をニトロ化するという反応が知られており、この反応が観測されるかを調べたが、光照射を行ってもチロシンのニトロ化は観測されなかった。これは、化合物の水溶性が低いために化合物の溶解が律速となり、反応効率が低下していると考えられる。現在、水溶性を増すための置換基を導入した化合物の合成を行っている。 また、光制御パーオキシナイトライト発生剤を開発する過程で合成した化合物が、可視光制御可能なNOドナーとして働くことを見出した。この化合物は培養細胞内でNOの放出を制御可能であり、ex vivoにおいてNOの主要な生理機能である血管弛緩を制御することに成功した。この化合物はNOの作用を精査するためのケミカルツールとしてだけでなく、その作用を活かした新たな化学療法剤の候補としても期待される。
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